本でなくライフスタイルを売る

 問 どういうことですか。

<b>常にペンと紙で説明をする増田氏</b>(写真=的野 弘路)
常にペンと紙で説明をする増田氏(写真=的野 弘路)

 答 僕らは本を売っていないんですよ。ライフスタイルを売っている。見た目は一緒ですよね。本は、売っているから。でも、本を仕入れて本を売る小売業と明らかに違うのは、僕らはライフスタイルを提案するために本を使っている。だからライフスタイルに関係のない本は置いてない。

 問 居心地の良い店でライフスタイルを提案することが、消費者が本を買うという行動にどれほど結びつきますか。

 答 代官山の蔦屋書店の坪当たり売り上げは、普通の郊外型の書店の3倍ぐらいあります。本を売っているスペースは300坪ぐらいと決して大きくない。そこで、月商1億円、本だけで売り上げていますよ。

 問 普通の書店の場合、「こういうものを読みたい」というのがあって、来店して探しますね。蔦屋書店では、目的がなく来ても「こんなものがある」という発見が多くあるということですか。

 答 そうです。目的買いならばネットで検索すればいい。うちは発見なんです。価値を提案しているのですから。

スマホでできないことをやろう

 問 レンタルDVDを中心とした「TSUTAYA」のFC(フランチャイズチェーン)事業で成長をしてきたCCCが、ここにきて相次いで直営店舗を開発している狙いは何ですか。

 答 僕らは企画屋です。時代に即した新しい企画を提示していかないといけません。もうスマートフォンを通じてアマゾン(米アマゾン・ドット・コム)などでできることは全部やめようと決めました。何年か前にニューヨークに行ったとき、大型CDショップが閉店したり、大手書店チェーンが倒産するかもしれないと聞いたりして、日本も絶対こういう流れになると思ったのです。

 ただ、人には理解の領域があって、理解の範囲を超えると、企画について納得できないので、乗ってきてもらえない。つまり(FC運営企業や他の小売業に)企画を買ってもらえないのです。自分たちでやって、数字を見せる。代官山 T-SITEを作ったのもそのためです。ある意味でショーケース作りです。

 問 東京・二子玉川にある蔦屋家電に行ったときにも、アマゾンとは違うところに行こうとしているんだと感じました。

<b>徹底的な「顧客視点」で店舗を見る</b>(写真=菅野 勝男)
徹底的な「顧客視点」で店舗を見る(写真=菅野 勝男)

 答 ぼくらは家電の素人でしたがライフスタイルを提案する蔦屋家電を15年に直営で開きました。それを評価してくれた家電量販店大手のエディオンがFCとなって今年4月、広島に大型の蔦屋家電を開業しました。

 ネットで買える時代に、消費者は高い頻度では家電店に行かないようになっているのではないでしょうか。蔦屋家電は、そうした課題を解決するのです。

 問 映像のレンタル市場は先細りで、CDなどの音楽ソフトの販売も同様です。どのように逆風に対処しますか。

 答 TSUTAYAは1421店舗あります。そのうち、本の扱いがある店舗は812店舗。僕はこの1400以上のTSUTAYA全部に本を入れていこうとしている。FCの加盟店に対してもレンタル専業の店は、もう業態転換しましょうと、僕からも言っています。

 問 米ネットフリックスが日本で事業を始めるなど、映画やドラマの映像ソフトはネット配信がますます広がっています。

 答 それは何も反論しません。僕らが今からレンタル店をつくりましょうと言っても乗る人はいないですよ。

 問 CCCは、動画配信などネット事業の展開には出遅れた印象です。

 答 そんなことは至極簡単で、僕らはやっぱり、FC加盟店のビジネスを毀損することは遠慮したんです。

 問 日本全国で書店の閉店が続いていて、書籍全体の市場が縮小している中で、CCCの書籍販売が増えている理由は何でしょうか。

 答 僕らの場合、FCビジネスなので、もうからないと加盟店はやりませんよ。複合店舗を展開することでもうかる構造になっているのです。昔はレンタルと書籍販売を複合していましたが、今はさらにカフェや文具と複合して、業容を広げています。代官山 T-SITEは非常にコストの高い場所です。あんなところで書店を出して見合うのかと皆さんに言われました。でも、全体としては成り立っているんですよ。

 問 そもそもCCCは「何をしている会社」なのでしょうか。

 答 僕らは3つの仕事しかしない。一つはプラットフォーム。企画会社としてプラットフォームを作りお客さんをハッピーにする。これがTSUTAYAや、Tカード、蔦屋書店です。

 次に、データベースマーケティングです。様々な企業で使われている当社のTカードによって、おおよそ(購入金額ベースで)年間7兆円分程度のデータが集まります。ただし、プラットフォームとデータだけでは、お客さんは幸せになれない。3番目がコンテンツです。

 ライフスタイル、つまり『こういうものがすてきじゃないですか』と提案できるコンテンツです。巨大な百貨店がたくさんの商品を用意して、長時間営業をしたとしても、もうお客さんは来ない。その中身が何か、なのです。

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