ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』を運営し、手帳などのオリジナル商品を販売する。3月16日の東証ジャスダック上場時、「問われているのは株価ではない」と静観する発言が“反利益主義”だと話題を呼んだ。発言の裏にある真意は──。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=陶山 勉)
PROFILE
[いとい・しげさと]1948年群馬県前橋市生まれ。68歳。法政大学文学部中退。71年コピーライターとしてデビュー。79年東京糸井重里事務所を設立、2002年株式会社に組織変更、16年株式会社ほぼ日に社名変更。17年3月16日、東証ジャスダック上場。主力商品の「ほぼ日手帳」の販売部数は60万部を超える。ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』ではエッセーを毎日更新。愛犬であるジャックラッセルテリアのブイヨンも時々登場する。

ほぼ日の流儀は、狩猟ではなく農業。
難しいことへの挑戦が会社を強くする。

 問 3月16日に上場してから約1カ月。何が変わりましたか。

 答 世の中ががらりと変わりますよ、と言う人がいる一方で、名前が知られているから上場する意味なんて無いと言う人もいました。どちらも本当でした。

 例えば同じマンションに住んでいるおばあさん。今までは挨拶すらしなかったのですが、郵便受けの所で『上場おめでとうございます』と言ってくれました。これまで何の関係もなかった人たちの視線が全く変わった気がします。趣味でお店を開いているのとは違い、しっかりした事業をやっていたのかと見直してくれたのでしょう。

 問 ふわふわした仕事をやっていると思われていたのかもしれませんね。

物欲はほとんどない。多くの人が自分の悪口を言い合う「にぎやかなお通夜」が開かれるのが希望(写真=陶山 勉)

 答 上場前に亡くなった、妻のお父さんもその一人。昔から『お宅の糸井君は随分楽しそうだね』と、冗談めかして皮肉を言われていたのですが、上場が決定した時、ケアホームで日経新聞を読んで『(東証)1部なのか2部なのか』と言ったそうです。真剣な顔で聞かれたからびっくりした、と妻が話してくれました。それに近いことが、全社員の家族で起きたわけです。取引先でも変化が起きました。

 上場前は、僕らもどこかに甘さがあったんでしょうね。『うちの会社においでよ』なんて、知り合いに気軽に声を掛けたりしていたし。だから今いる社員は、無謀なことを冒険と呼ぶ人、いたずら心のある人が多いのかもしれない。でも上場を機に違うタイプの人、経営哲学や成長を重視する社員に選ばれる会社になれる気がします。