創業者である父親から社長を継承して15年超。売上高が3倍になる急成長を遂げた。 躍進の原動力だった海外事業の競争が激化しているが、腰をすえて攻め続ける考えだ。 先の見えない時代には、顧客の「欲求」を先読みする力が求められると説く。

(聞き手は 本誌編集長 飯田 展久)

(写真=大槻 純一)
(写真=大槻 純一)
PROFILE
[たかはら・たかひさ]1961年愛媛県生まれ。成城大学経済学部卒業後、銀行勤務を経て91年ユニ・チャームに入社。2001年6月、社長に就任。おむつなどの国内事業基盤を確立するとともに、新興国を中心とする海外展開を加速。社長就任時には1割だった海外売上高比率は現在約6割になった。

インドで稼げるメド。中国以上に大きな可能性がある。
想定外は起きる。想定するサイクルを短くするしかない。

 問 2月に発表した2016年12月期決算は、売上高が前の期比3.8%減の7109億6500万円、営業利益は同2.1%減の782億7700万円でした。中国やインドネシアで、おむつ事業の成長が踊り場にあるように見えます。

 答 金額では踊り場に見えますが、数量では継続的に成長を続けています。できるだけ多くの消費者に、我々の商品を届けるためには、少し金額的な売り上げ成長が鈍化したとしても、しっかりマーケットの規模を拡大するための投資をした方がいいと思っています。

 シェアについて語るのも、中国やインドのような成長市場においては、あまり有用ではないと思っています。今の段階では、マーケットサイズをいかに大きくしていくのかということが重要です。中国の母親の紙おむつ使用枚数は、日本の母親の3分の1程度。まだ紙おむつを使っていない層が全体として7割近くも存在するのです。そこをいかに健全に開拓していくのかということの競争なので、これはむしろユニ・チャーム1社でやるよりも、全体で大きくしていく方がいい。ステージとしてはゼロサムの競争よりはプラスサムの競争をしているつもりでいます。

中国では「理想」追求している

 問 中国には早くから進出し、「地産地消」を進めたことが、ここ数年で逆風となったともいわれています。

(写真=大槻 純一)
(写真=大槻 純一)

 答 中国において、なぜ日本製への需要に対して取り組みが遅れたのかといわれますが、ある意味、理想を追求していると思っています。究極は現地の人たちによって事業が行われるのが理想ですから、中国の市場では中国の人たちが商品やマーケティング、物づくりを考えて実行する体制をつくる。当社が進めてきた中国事業の中核ターゲットは、最もボリュームゾーンの中間所得者層です。できるだけ農村部に至るまで販路を広げていくという考えを持っています。確かに効率も悪いし、採算も悪いかもしれませんが、そこにいる消費者に対して、幅広くサプライチェーンを構築していったのです。そのプロセスの中で、中国の現地法人の社員が育って、現地発の商品やサービスが生まれる。そういう取り組みをいつまでも日本人がやっているようだと、本当の意味での現地の消費者の心の琴線に触れるような商品は作れないと思っています。

 問 現地で事業を育てるという基本姿勢は変えないということですね。

 答 そうですね。海外展開において大事な共通項は『現地化』だと思います。日本で我々のビジネスが安定的に成長しているのはなぜかというと、消費者と同じ国籍の人間が、しっかりコントロールしているからです。現地化で重要なのは、一つにはユニ・チャームの本社の人間がハンズオンして(手を触れて)、しっかり手取り足取り指導しているかどうか。もう一つがそこからハンズオフして(手を放して)自由な発想が出てきたり、現地の人しか分からないようなことをやらせたりする段階にうまく移行していけるかということです。そうした意味で、中国ではちょっと中途半端だった面があるかもしれません。中途半端にハンズオンしながら、一方で任せるところは任せてしまったということです。経営者も含めて現地化しているという状況にいかに早くもっていくかというのは大切で、今後もその方向性は変わりません。ただ、ハンズオンとハンズオフのタイミングが重要でしょう。

欲求のステージを見極める

 問 かねてインドの市場開拓に力を入れてきました。黒字化のメドは立っていますか。

 答 ようやく今期、利益でも当社の業績に貢献するようになります。前の期は下半期は黒字化できましたが、通期では赤字が残ってしまいました。今期は通期で黒字化できるぐらいの規模になってきています。主事業は紙おむつです。紙おむつの普及という意味では、中国以上に遅れていますが、将来的に見れば、中国以上の市場規模があります。中国はむしろ、早々に子供用おむつよりシニアの商品が成長するようになると思います。その意味で、出生数が飛躍的に伸び続けているインドには大きなポテンシャルがあります。

 問 海外戦略を進める上で、需要の予測はどのように立てていますか。

 答 常に10年くらい先を見通して考えています。主に、その国・地域の『欲求度合い』がどこにあるか、ということを考えます。商品のニーズは、米国の心理学者のアブラハム・マズロー氏が唱えた『欲求5段階説』と密接につながっています。人の欲求というのは、ピラミッドのように構成されているという理論です。底辺には『生理的欲求』というのがあり、『安全欲求』『所属欲求』『承認欲求』と続き、頂点は『自己実現欲求』です。これは社会の成熟度合いを考える上で、非常に参考になる。例えば、日本人の平均的な欲求の度合いは、すでに承認欲求や自己実現欲求にきている。一方で、途上国は、まだ安心安全といったところを求める欲求レベルです。提供するカテゴリーや商品内容は必然的に違ってきますよね。

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