学生時代にためた100万円と、紳士服の会社で2年勤めた時にためた150万円。そこを辞めた後にアルバイトでためた50万円。300万円で起業しました。とりあえず、100万円を握りしめて、フランスに買い付けにいった時のことは忘れません。緊張して声が出なくなったのは、後にも先にもあれが初めて。段ボール10箱分を仕入れて、外国人が経営する現地のどんぶり屋で「焼き鳥丼」を食べて帰ってきました。

 何とか起業し、オープンさせたセレクトショップの出だしは好調でした。最初の2~3カ月で月間約50万~60万円を売りました。特徴は接客です。1人のお客さんに、3時間くらい接客することもありました。商品数も限られていますし、話す内容は商品のことというよりは、お客さんのこと。家族構成や、学校での生活、音楽の趣味などを話しているうちに、家族のようなお客さんがどんどん増えていきました。とにかく顧客を隅々まで知る。これは僕の原点にもなっている体験です。2年目は3000万円、3年目は1億円と売上高はどんどん増えていきました。

「社長がバカなので辞めます」

 転機は創業5年目に訪れました。突如として売れなくなったのです。売上高は6億円程度を見込んでいて、それも控えめな数字として捉えていました。蓋を開ければ3億円しか売れず、創業以来初の赤字でした。それでも僕はバカだったので「こんな格好良い商品が売れないのは、岡山という土地柄のせいだ。東京の代官山にいく!」と意気込んだのです。この発言で、社員は一気に僕を見放しましたね。

 13人いた社員は、3人になりました。目の前には在庫の山と赤字転落という事実。客もカネも社員もいなくなり、何もすることがなくなり、とにかく店を掃除していました。松下幸之助の『商売心得帖』に「売れなきゃ掃除しろ」とあったからです。どうしたらよいのか分からないまま、掃除をし、「次の一手」を模索していました。もうどこも掃除をするところがなくなって、レジにでも油を差そうと思ってレジ下を見てみた時です。手紙がありました。何が書いてあったと思いますか。「社長がバカだからやめます」と。信頼していた社員でした。数カ月後に辞めようと思い、途中まで書いてレジ下に置いていたのでしょうね。数少ない社員がまた一人辞めようとしている──。これで完全に目が覚めました。

 とにかくこだわりを捨てて、徹底的に今までと反対のことをやってみようと決めたのです。それまでやっていたことと、文字通りすべてを逆さまにしよう、と。輸入の仕入れではなく、国内で自分たちで作ってみてはどうか。今でいうSPA(製造小売り)ですね。高価格帯ばかり扱っていたので、安価なものをやる。アバンギャルドなものを扱っていたけど、ベーシックをやろうと。逆転の発想といえば格好良いですが、崖っぷちにいたので「もう全部逆さまにしちゃえ」という感じでした。SPAについては、海外の伊ベネトンや米ギャップ、国内ならワールドなどを研究しました。その結果立ち上げたのが、アースでした。99年のことです。その後、宮崎あおいさんを起用したテレビCMなどで一気に全国区となりました。

宮崎あおいさんを起用した「アース ミュージック&エコロジー」で、一気に全国区に上り詰めたストライプインターナショナル

 こうした経験を経て、「自分の思い入れ」や「業界の常識」といったことに拘泥することの罠を痛いほど学びました。

石川流、壁の乗り越え方
  • 既存メーカーが手つかずの領域に参入
  • ブランド撤退基準を明確化
  • アパレル以外の新領域にも積極投資
  • 足りないパーツはM&Aでスピード重視

レンタルも中古も自分でやる

 最近の例で言えば、衣料品のレンタルサービス「メチャカリ」があります。月額5800円で何着でも衣料品が借りられるサービスです。アパレル企業以外の企業がレンタルをやることは珍しくありませんが、アパレル大手が本格的にレンタルに取り組んだ例は皆無でしょう。なぜなら、「新品が売れなくなる」という思い込みがあるからです。

 2015年に始めたメチャカリは現在、有料会員数こそ5000人ですが、アプリのダウンロード数は40万を超えています。新品の洋服を購入する人が減るといった傾向も今のところ見られていません。ストライプの会員組織は、オンラインもオフラインも統合していますが現在その数は380万人。一方、メチャカリの会員の3分の2は、既存のストライプの会員以外から獲得できています。つまり、メチャカリがあったことによって、新品を購入してくれないどころか、新しい顧客が増えた。

 メチャカリを始めたと同時に、自社製品の中古品販売も開始しました。レンタル後に返却された商品を半額以下で自社EC(電子商取引)サイトなどで販売しています。消化率は約80%以上。中古商品販売も、アパレルメーカーが自ら手掛けることはほとんどない。

 成功の秘訣は、小さく始めて検証を重ねたことです。分からないことは、まずお客さんに聞いてみる。メチャカリも、最初500人程度に使ってもらい、どんなユーザーが使うのか、新品は買わなくなるのか、どれくらいの点数を借りるのかといったことを、徹底的に検証しました。