そこから、本質を読み取ってください。例えば、販管費が減少して徐々に営業利益が上がっているとしましょう。一見、状況が良いと判断しがちですが、販管費が下がっているのは効率化が進んだからでしょうか。それとも給与水準が下がっただけでしょうか。それによって、会社の状況は全く異なる見方になります。私は、問題解決の成否はこの現状認識の段階で7割がた決まると見ています。

 中計を作る際、当社では「グランドマップ」と呼ぶシートを使っています。市場成長性などの置かれた「環境」と自社の「強み」、こうなりたいという「意思」を書き込みます。そしてこの3つを基に、もう一度自らの「」となりたい「ポジション」、そして「ゴール」の3つを設定します。

 当社の例で言うと、まず日本の工芸が衰退しているという「環境」があり、直営店を持っているという「強み」がある。自分たちも工芸業界も生き残っていくんだという「意思」を確認しました。

 これらをぐるぐると何度も考え、出てきた「志」が「日本の工芸を元気にする!」というビジョンでした。「工芸業界の星野リゾートになろう」と「ポジション」を設定し、100年後に「工芸大国、日本」と呼ばれることを最終的な「ゴール」に設定しました。

<b>「日本の工芸を元気にする!」を合言葉に工芸メーカーのコンサルティングを手掛ける。店舗には自社製のほかにも工芸品がずらり</b>
「日本の工芸を元気にする!」を合言葉に工芸メーカーのコンサルティングを手掛ける。店舗には自社製のほかにも工芸品がずらり

 この最初の設定が非常に大切です。「どこでどう戦うか」という定性的な目標は“地図”です。その地図を基に、売り上げや利益、借金の返済計画といった定量的な中計を組み立てていきます。

 それでは、具体的にブランディングの作業に入っていきましょう。

 そもそも私が「マーケティング」ではなく「ブランディング」という言葉を使うのには理由があります。大まかに言えば、マーケティングは市場調査を基に商品を企画していくこと。調査には投資が必要です。中小企業が大手に勝てる可能性は低いでしょう。

伝えたいことが伝わらない

 ブランディングも最終的に商品に落とし込まれますが、出発点はどちらかというと市場ではなく自分にあります。「自分がどうしたいか」「どういう商品を作りたいか」に力点を置いているのです。中小メーカーの勝ち目は、ブランディングにあると考えています。

 私が考えるブランディングの定義は「伝えるべきことを整理して正しく伝えること」。では、整理するとはどういうことでしょうか。

 「この生地の織り方が非常に難しい技術で…」「技術のここが素晴らしくて…」。メーカーの経営者からこうした話をよく聞きます。職人気質で日々、技術と向き合っていればこそ、自社の技術や素材に自信があるのでしょう。

 ただ、それは顧客に伝えるべき情報でしょうか。言いたいことがたくさんあっても、それをそのまま伝えても伝わりません。特にこれだけ情報があふれ、消費者がシビアになっている現在ではなおさらです。

 まずは、「自分たちは何者か」を考えましょう。例えば当社がコンサルティングを手掛けた陶器メーカーのマルヒロでは、自分たちを「マルヒロ」ではなく産地である「波佐見焼」と定義しました。強みを考える際に、マルヒロだけでは特徴を見いだせず、「産地」に強みを見いだしたからです。

 そして、市場を明確に定義するセグメント化の作業に移ります。これは「◯◯と言えば自社」を考えることです。

 兵庫県豊岡市のかばんメーカー、バッグワークスは、自社を「業務用カバンのバッグワークス」と定義しました。「カバン」では広すぎるからです。「業務用カバン」というこれまでにないセグメントを自分たちで作り上げ、その中で戦うことを宣言したわけです。

 そして、自社ブランドの守備範囲を考えることも必要です。

ブランドをコップに例える

 ブランドをコップに例えてみましょう。同じ量の水を入れるのであれば、細長いコップのほうが水かさは高くなります。底面積の大きいコップでは低いまま。底面積が表しているのがブランドの守備範囲。水かさの高さはブランド力に相当します。きちんとしたセグメントの設定が重要なのです。

 例えば新潟県五泉市のニットメーカー、サイフクからは当初、「ニットで雑貨ブランドを作りたい」と依頼を受けました。雑貨は底面積が広く、ブランド力が分散しがちです。競合も多く、勝てる見込みがありません。もっと狭い単品ブランドを模索しました。

 ニットで作れるアイテムを洗い出し、市場性や競合の有無、時代性を検討し、最終的に「ポンチョ」の単品ブランドになることに決めました。

まずはブランドを「枠」を決めよ
●単品ブランドと総合ブランドの違い
<b>ブランドが扱う商品群の幅はコップに例えられる。単品なら細長く、総合は幅が広い</b>
ブランドが扱う商品群の幅はコップに例えられる。単品なら細長く、総合は幅が広い
<b>同じ量の水=投資をした場合、単品ブランドのほうがブランド力が向上する</b>
同じ量の水=投資をした場合、単品ブランドのほうがブランド力が向上する

 逆に、底面積を広くした例もあります。京都で創業420年になる薫玉堂は我々がコンサルティングを手掛ける以前は線香屋でした。「線香なら薫玉堂」でもセグメントの狭さとしては問題ないのですが、市場の成長性に疑問符が付きます。

 セグメントを検討した結果、たどり着いたのが、薫玉堂の古い木彫りの看板に描かれていた「御香調進所」という言葉でした。薫玉堂は古くから、お香を調合する企業だったのです。「線香屋」から「香りの総合ブランド」へ底面積を拡大したのです。

 セグメントが決まったら、流通を考えましょう。マーケティング論で一般的なのはターゲットを決めること。「◯◯に住んでいる30代で趣味は…」とターゲットを決めていくのですが、私はどうしてもこの方法に現実感が湧きません。雑貨の場合、ターゲットとなる人の年代が広いため、この方法が適当でないと感じているからでしょう。

 個人的に勧めているのは、自社の商品を並べたい「お店」を選ぶことです。伊勢丹のような百貨店でも構いませんし、食品であれば紀ノ国屋、旅行カバンなら羽田空港でしょうか。イメージしたお店の単価設定とこれから企画する商品の単価のズレがないかどうかをチェックします。ここまでが、ブランドのフェーズです。

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