麻織物メーカーからSPA(製造小売り)へ変貌し、確固たるブランドを築いた。全国の中小工芸メーカーが企業再生を依頼し、それぞれの商品を大ヒットさせている。中川政七社長は、「モノを売る」という思考を捨てることから始めようと語る。

1996年:京都大学法学部に入学
2000年:富士通入社。大企業ゆえのスピードの遅さにもどかしさを覚える
2002年:実家である中川政七商店に転職
2003~06年:SPA(製造小売り)業態への変革を図るために悪戦苦闘。物流の仕組みから営業のあり方まで全てを見直す
2008年:中川政七商店の社長に就任
2016年:「中川政七」襲名。工芸産地の「産業革命」と「産業観光」を狙う
- 「経営」という概念が希薄。これまでは問屋が実質的に中小メーカーを経営していた
- 技術を売り物にしすぎる傾向がある。消費者にとって大事なのは商品の「物語」
2002年に実家である中川政七商店に戻った際、日本の「工芸」が危機にひんしている現場を目の当たりにしました。年に数社の中小工芸メーカーが、「事業をたたむことにしました」と挨拶に来るような状況だったからです。
当社も極めて厳しい状況でした。様々な角度から検討した結果、私が出した答えがSPA(製造小売り)業態への転換でした。消費者に最も近い小売店まで自社で投資し、保有する形態です。これは言葉を換えれば、「モノを売る」から「ブランドを育てる」という視点への転換でした。
数年かけて自社の事業が軌道に乗り始めたころから、同じような工芸メーカーから「助けてほしい」と声をかけられるようになりました。コンサルティング事業を始めていろんな中小メーカーを見ていくと、同じような過ちを犯していることが分かってきました。
その経験を基に、ブランディングについてお伝えしたいと思います。
ブランディングとは、「デザインの力を使っておしゃれな商品を作ること」だと考えていたらそれは間違いです。まず中小メーカーの経営者がすべきなのは、「数字を読むこと」。会社の現状を把握して、中期経営計画を作成することから始めてください。
中計は戦うための“地図”
中小メーカーの経営者は、多くが「経営」していません。問屋からファクスで届く納品書を見て、その数だけ製造する一つの製造部門に成り下がっている傾向があります。つまり、問屋が経営しているわけです。問屋が倒産したら経営者を失い、右往左往する──。これが、私が直面した地場工芸メーカーの惨状でした。
決算書を読む一つのコツは、全てをパーセンテージで表すことです。売上高を100%だとしたら、原価は何%で販売管理費と営業利益は何%なのか。これを見るだけで商売の形がぼんやり分かります。
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