メディアで話題になることを目標に掲げ、そこから逆算して、事業の細部を考える──。こんな異色の経営を貫くには、消費心理や時代の流れを読む力を高めることが前提になる。数々の繁盛店の仕掛け人として知られる中村貞裕氏がブームを生み出す発想法を語る。

(写真=陶山 勉)
中村貞裕社長の経歴
1971年:東京都生まれ
1995年:伊勢丹入社(2001年に退社)
2001年:カフェ「OFFICE」をオープン。カフェブームの立役者に
2001年:トランジットジェネラルオフィスを設立
2008年:サニーサイドアップとの共同経営で「bills」の日本1号店をオープン
2015年:台湾の人気かき氷店など海外人気店を相次ぎ日本に開業
2016年:三越伊勢丹ホールディングスと飲食店運営の新会社設立
2016年:博多の人気うどん居酒屋「二〇加屋長介」を東京に開く
ヒットが生まれにくい主な要因
  1. 顧客は何を望んでいるのか、消費の潮流をとらえられない
  2. せっかくの工夫やこだわりを上手に伝えられない

 メディアが取り上げるような話題づくりで人気店を生む──。2001年に最初のカフェ「OFFICE」をオープンし、後に「カフェブームの立役者」と呼ばれました。以来、ずっとその成功パターンを続けてきました。もともと、流行への関心が強く「スーパーミーハー」を自認する僕にとっては、モチベーションが最も生まれる戦略だからです。今ではカフェだけでなく、様々な飲食店やシェアオフィス(複数の会社の社員が共同利用するオフィス)、イベントなどの運営やプロデュースも手掛けています。

 トランジットジェネラルオフィスの連結売上高は2016年10月期に前の期と比べて26.7%増の67億7000万円でした。09年10月期以降、8期連続の増収を達成しています。

 2008年からはPR会社のサニーサイドアップとの共同経営で「世界一の朝食」というキャッチフレーズで知られる豪州の人気レストラン「bills」を展開しています。リコッタチーズを使ったパンケーキが名物料理で、「朝食ブーム」と呼ばれる社会現象をリードし、数多くのメディアで話題となりました。

 「bills」の実績もあり、海外のオーナー経営の人気店を次々に日本へ誘致できるようになりました。米ニューヨークの人気店で、クロワッサンとドーナツを融合したスイーツ、クロナッツが看板の「DOMINIQUE ANSEL BAKERY」。ブリトーが名物料理の豪州の人気メキシカンファストフード「Guzman y Gomez」。台湾の人気かき氷店「ICE MONSTER」などです。どの店も「日本初上陸」の人気店として話題となっています。

情報の「目利き」になる方法

 どうやってトレンドを読み、ブームとなる店を作り出すのか。大切なのは情報の「目利き」になることです。

 雑誌、書籍、テレビの情報番組、そしてインターネットを通じて、ライフスタイルや流行などについて手当たり次第に情報を仕入れています。例えば、雑誌は多いときで週に3~4回、1日当たり1時間ほど熟読はせず流し読みをしています。海外でも地方でも時間を作っては出掛けて、現地の人気飲食店などの情報を集めています。

 メディアで情報を集めることやインフルエンサー(流行の最先端にいて発信力のある人)に会うために、毎日、何時間の時間を割り当てるといったノルマを決めたことはありません。息を吸うような感覚で、時間があれば情報を集めたり、人に会ったりしています。もっとも情報を集めるだけでは、ただの情報オタクです。それで終わっていては「目利き」にはなれません。

 むしろ、情報を集めて頭にインプットすることと同等かそれ以上に大切なのが人に伝えてアウトプットすることです。具体的には、面白いと思った情報を人に話したり、メールで伝えたりすること。SNS(交流サイト)に書き込むこともよいでしょう。そうすることで周囲に情報通であることが知られ、さらに良い情報も集まってくるようになるからです。

 こうした情報のインプットとアウトプットを3年も意識して続けていると、何が次にヒットするか。その「火種」みたいなものが分かってくるようになってきます。

 そうして、「目利き」に育った部下には、権限を与えて仕事を任せます。当社のオペレーション事業3部の星野天宏部長は、1~2カ月の期間限定でサンリオのマイメロディのような特定のキャラクターや人気アニメをテーマとして料理やサービスを提供するカフェの運営を受託する事業を立ち上げました。これまでに約60件ほどのテーマでカフェを運営し、メディアでも注目されています。最近では若者向けの人気アニメ映画「君の名は。」のカフェとしても話題になりました。

 彼はファンと同じ気持ちになるまで、何回もアニメの原作となったマンガやアニメのDVDを見るそうです。さらにファンのツイッターへの書き込みなどを丹念に調べてファンの心に刺さる言葉を研究し、店づくりに反映しています。この事業を社内では「キャラカフェ」と呼んでいるのですが、現在は店数を7店まで増やしています。