10年連続増収を達成した化粧品会社、ランクアップ。大半の社員が女性で、午後5時になるとほとんどの社員が退社する。残業を撲滅する「働き方改革」と「成長」を両立させるための方法とは。

(写真=新関 雅士)
(写真=新関 雅士)
岩崎裕美子氏の経歴
1968年:北海道生まれ
1991年:広告代理店に転職。97年に別の広告代理店に転職し99年取締役
2005年:ランクアップ設立
2006年:ホットクレンジングゲル発売
2009年:第1子出産。定時退社に向けて改革スタート
2011年:「17時に帰っていいよ」制度スタート
2016年:東京都「ライフ・ワーク・バランス認定企業」に認定
女性の活躍を阻む主な要因
  1. 長時間勤務が前提で、出産・育児中の女性に活躍できる仕事を与えられない
  2. コストを節約しようとアウトソーシングやシステム化より社員の頑張りで済ませる
<b>商品企画や広告といった重要な業務に集中する仕組みを作ったことで、毎年多くのヒット商品を生み出している</b>(写真=新関 雅士)
商品企画や広告といった重要な業務に集中する仕組みを作ったことで、毎年多くのヒット商品を生み出している(写真=新関 雅士)

 終業時刻の30分前、午後5時になると社員がどんどん退社していき、午後6時になればオフィスには人がほとんどいません。それが私たちの会社、ランクアップでは当たり前の光景です。

 ランクアップは「マナラ」ブランドの化粧品を製造・販売する会社です。代表製品は、美容成分で化粧を落とせる「ホットクレンジングゲル」や、30秒でファンデーションが塗れる「BBリキッドバー」など。忙しいママやキャリアウーマンがもっと輝くのをお手伝いする製品を開発・販売しています。

 社員45人中43人が女性。世の中では少子化と言われていますが、私たちの会社では常時4~5人が産休中。産休からの復帰率も95%です。

 「それで経営が成り立つの?」と思う方が多いかもしれません。でも、ランクアップは2005年の創業以来、10年連続で売上高を増やしているのです。

 一方で、疑問に思われる方の気持ちも本当によく分かります。私自身が昔は、毎日終電まで残業するのが当たり前という、ブラック企業の取締役営業本部長でした。

ブラック企業で知った限界

 当時働いていた広告代理店は、長時間労働によって売上高を確保していました。私自身、かつてはワークライフバランスと言われても「何を甘いことを言っているのか」というような意識で猛烈に働いていたのです。

 毎日終電まで働く環境では、女性は結婚できても出産は難しい。ですから、多くの優秀な若い女性が会社を辞めていきました。

 人材を育てても数年で辞めていく繰り返し。そうしているうちに私も35歳になり、いよいよこのまま一生ママにならずキャリアウーマンでいるか、出産して退職するかという問題に直面したのです。

 それまでも社長に長時間労働にならないような、新しいビジネスモデルを提案していました。でも、「残業を減らして売り上げが減ったらどうするのだ」と一蹴されるだけで、説得できませんでした。毎日長時間働いて取締役になった私も、一度出産すればもう居場所がないのです。

 経営トップの考え方が変わらなければ問題は解決できない。そこで「長時間働かず、女性が安心して出産できる会社を作る」と決意し、37歳の時にランクアップを創業しました。

岩崎流、壁の乗り越え方
  • 全社員に定時退社を徹底
  • 業務を棚卸しして必要の有無を選別
  • アウトソーシングは理念共有型で
  • ルーティンワークはシステム化する

 多くの会社が長時間労働を今や最大の経営課題と捉えています。どうすれば、残業を撲滅できるのでしょうか。

 ポイントは経営陣による意識の徹底と、徹底的に業務スピードを上げる工夫の積み重ねにあります。

 今でこそ、「5時ピタ退社」とかっこよく言っていますが、創業から数年間は定時の午後6時から何となく1時間程度残業して帰る会社でした。

 大きく変わったキッカケは、私が41歳の時に出産したこと。出産から3カ月で復帰したのですが、当時ちょうどシステムトラブルがあり、創業してから初めて社員が午後9時頃まで残る事態が発生していたのです。

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