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 マーケティング戦略に対しては冷ややかな声もある。キリンビール関係者は「膨大な量の広告を出稿するP&G流のパワーマーケティングがいつまで通用するのか」「市場が縮小する中で、第三のビールやPBの商品品質を上げることで、最終的には自らの首を絞めるのでは」と指摘する。競合のマーケティング担当役員は「消費者の声ばかりを聞くと、最終的に既存の売れ筋商品に近づいてしまう」と話す。

 ビール業界の先行きは不透明だ。19年は消費増税が控え、20年以降は酒税の一本化に向けて、税体系が段階的に変わる。26年までに現状のビール、発泡酒、第三のビールと3つあるカテゴリーは一本化され、ブランドの淘汰が進むとの予想は多い。布施社長は「強いブランドがなければ生き残れない。だからこそブランド育成が重要になる」と改革の意義を語る。ブランドの淘汰が起きた時に、キリンビールは生き残れるか。改革の本当の成果が問われるのはこれからだ。

(長江 優子)

INTERVIEW
布施孝之社長に聞く
判断基準を「会社」から「消費者」に
(写真=北山 宏一)

 キリンビールは長期的な負け戦の中にいました。ヒット商品の登場によって、単年でシェアが増えても、勝ち続けることはできなかった。勝ち続けるには企業の体質が変わらないと難しい。社長になる前からそうした問題意識を持っていました。

 気がつけば、社員の判断基準は会社本位になっていました。シェアが減少すると、目先の数字が欲しくなり、新商品を乱発してしまう。本丸のビールで(アサヒビールの)「スーパードライ」と勝負をしても、不利だし、負けるのが怖いから、真っ向勝負を避けていました。

 だから、社長就任以降、社内で念仏のように「どこの企業よりもお客様のことを一番考える組織風土にする」と言い続けてきました。判断基準を消費者に戻したかったんです。

 でもキリンビールの組織構造はマーケティングも含めて、本社が絶対でした。消費者に一番近い現場を重視するために組織を変革し、マーケティングの判断基準を消費者に置きました。投資の方向性も主力の5ブランドに資源を集中させ、「ブランドを育成する」という方針に変えました。

 これらの変革で、勝負と位置づけていた2018年の1~3月期で良い結果を残せました。社員に成功体験を感じてもらうことができ、変革が正しいものだと信じてもらえるようになり、改革が加速する好循環が起きています。

 小売り向けのPB (プライベートブランド)を始めるきっかけは、17年6月に酒の安売り規制が強化されたことです。外国産のPBの売上構成比が増えました。消費者のニーズがPBにあるなら、メーカーとして対応すべきと考えました。参入に当たり、NB(ナショナルブランド)の売り上げが減少するかもしれないという懸念はありました。でも会社が危機にある中で、攻めなければ勝てません。結果として、小売りとの連携が強化され、NBの投資効果も奏功し、NBの売り上げは増えています。

 ビールメーカーにとってシェアはキリンビールへの支持率です。消費者のことを一番に考える会社になれれば、消費者は自発的にキリンビールの商品を選んでくれると思います。そうなれば、安売りもなくなる。酒税の一本化でブランドの淘汰が進む中で生き残ることもできる。そのために消費者に「好き」と思ってもらえるブランドを、育成していきます。

(談)

日経ビジネス2018年12月24日・31日号 58~62ページより目次