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 もう一つ、重視したのは消費者の声だ。もちろん、これまでもキリンビールでは新商品開発時に消費者調査を実施し、その結果を生かしてきた。しかし、山形氏は「従来に比べて10倍以上の時間をかけろ」とハッパを掛けた。第三のビールをどういったシーンで飲むのか。現状の製品の何に満足をしていないのか。徹底的に声を聞いた。

 過去からの反省と消費者調査から分かったのは、「お金があれば、ビールが飲みたい」という消費者の声だったという。ビール好きが好むのは、コクや飲み応えがしっかりした商品が多い。しかし、既存の第三のビールは食事と一緒に楽しめる軽い飲み心地の商品が多く、「コクや飲み応えは開発要素として重要視してこなかった。ビール好きの人が満足できるおいしさの商品を開発したいと考えた」と、冒頭の「品出し」に奮闘した京谷氏は語る。

 この消費者のニーズを満たすため、本麒麟で使ったのはキリンビールの看板商品「キリンラガービール」と同じホップだった。これでビールのようなコクと飲み応えを実現。さらに商品パッケージは赤をベースに、キリングループの「聖獣」を描き、商品名はキリンビールの本気度を表すかのように「本麒麟」と名づけた。

 変化したマーケティング部に応えるように、経営陣も大きな決断をした。18年1月、布施社長は集まった報道陣を前にこう宣言した。「18年は主力ブランドに集中投資をする」。それまで25、26あったブランドにCMを投入していたが、主力の5ブランドに絞る戦略に転換した。方針転換によって、本麒麟の発売前には、過去最高レベルといわれた一番搾りのリニューアル時と並ぶほどの広告出稿を実施。営業部との連携で、CMと連動させた店頭販促を実施したことで、本麒麟はロケットスタートを切ることに成功した。

 布施社長は「社内に18年の上半期が勝負だと言っていた。一番搾りや本麒麟の好調によって、社内に成功体験を作ることができ、改革を様子見していた人間を支持派に寄せることができた」と手応えを語る。

 小売りとの連携にも乗り出した。セブン&アイ・ホールディングスとは一番搾りブランドで共同開発品を手掛け、イオンやローソン、ファミリーマートのPB商品の製造を請け負うことを決めたのだ。一見すると、工場の稼働率の向上やシェアの獲得が狙いに見えるが、実情は違う。小売りとの関係を強化することで、売り場でのキリンビールのNB(ナショナルブランド)商品の優遇率を上げ、消費者の目に留まりやすくし、NBの売り上げアップにつなげようとしているのだ。

大手小売りと連携し、売り場での存在感を高める
●キリンビール製のPB商品や共同開発品と売り場で想定される変化

既存商品で戦えるか

 18年は本麒麟のヒットや小売りとの連携強化など話題に事欠かなかったキリンビールだが、19年は課題が多い。競合各社はキリンビールの勢いを止めようと、新商品や新たな戦略を用意している。キリンビールは投資の選択と集中を掲げているため、新商品の打ち手は限られる。石田氏は「新商品頼みから、既存商品の育成で戦えるか、真価が問われる」と覚悟する。

日経ビジネス2018年12月24日・31日号 58~62ページより目次