「2018年はキリンビールの一人勝ち」。ビール業界でこういわれるほど、強さを見せつける。3月に発売した第三のビール「本麒麟」が大ヒット。主力ビールの「一番搾り」も堅調だ。ヒット商品はなぜ生まれたのか。これまで「聖域」扱いだったマーケティング部の大改革が功を奏していた。

キリンビールでマーケティングを担当している京谷侑香氏はあの日の光景が忘れられない。今年3月13日、売り出したばかりの第三のビール「本麒麟」を都内のスーパーの店頭に並べる「品出し」を手伝っていた時のこと。本麒麟を棚に並べた瞬間から来店客が手に取って買っていくのだ。営業担当時代に何度も品出しを経験している京谷さん。それでも「補充が追い付かないなんて経験したことがなかった」。
本麒麟が売れに売れている。発売直後から生産が間に合わなくなり、約3カ月の出荷調整をするほど。その後も勢いは止まらず、11月20日には、2018年の年間販売目標を発売当初の目標より7割多い約870万ケース(1ケースは大瓶20本換算)に引き上げた。上方修正は6月に続いて2回目。競合のアサヒビールが13年に発売した第三のビールのヒット商品「クリアアサヒ プライムリッチ」の初年の販売目標が400万ケースだったことからも、本麒麟の絶好調ぶりが分かる。キリンビールにとっては「キリンのどごし〈生〉」に次ぐ13年ぶりの売れ行きだ。
ビール業界では今、「18年はキリンビールの一人勝ち」とさえいわれる。確かに上のグラフが示すように、キリンビールのシェア(課税済み出荷量ベース)は急回復している。ビールの「一番搾り」も堅調に推移し、18年1~6月はビール、発泡酒、第三のビールと全てのカテゴリーでシェアを上昇させた。特に本麒麟のヒットやPB(プライベートブランド)商品への参入で第三のビールのシェアは5.3ポイントも増加。この結果、ビール系飲料のシェアは34%に達した。18年通期で見ても勢いは持続しているとみられている。
ヒット商品に恵まれ、反転攻勢をかけるキリンビール。とはいえ、消費者ニーズが移ろいやすいご時勢だ。ヒット商品といっても偶然の産物ではないか。そんな見立ても成り立つ。だが、キリンビールの今の勢いは決して偶然のことではない。その裏には、この20年もの間、キリンビール社内に巣食ってきた負けを負けとして認めない社員の意識を打ち破る改革があった。
もともとキリンビールは業界の盟主だった。文明開化の華が咲いた明治時代の1888年、聖獣の麒麟をラベルにした「キリンビール」を発売。三菱財閥を代表する飲料メーカーとして業界をけん引してきた。
そんなキリンビールがトップシェアの座を奪われたのは1998年。87年に「スーパードライ」を発売し、販売量を増やしてきたアサヒビールに抜かれたのだ。キリンビールは2009年にビール系飲料のシェア首位の座を取り返したが、10年にはアサヒに再逆転され、その後は販売量も右肩下がり。17年にはシェアは31.8%まで下がっていた。
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