分析で終わらせない工夫必要

「多くの企業でありがちなのは、分析結果を聞くだけで満足してしまい、その後に効率向上の取り組みを怠ってしまうこと」。長年、大阪ガスでデータ分析に携わり、2000年度にビジネスアナリシスセンターが誕生した際に初代所長を務めた河本薫・滋賀大学データサイエンス学部教授はこう指摘する。
そこで大阪ガスでは、分析を分析で終わらせない仕組みとして、「スポンサーシップ制度」を導入している。まず事業部がビジネスアナリシスセンターにデータ分析を依頼した場合、案件ごとに費用を支払う形とした。依頼した事業部の担当者には、費用以上の効果を生み出す責任が発生する。“投資”を回収するため、担当者は事業部内で分析結果を使った取り組みを積極的に呼びかけるようになるわけだ。
これはビジネスアナリシスセンター側にもメリットがある。事業部の真剣度が高まることで、データ分析を基にした計画を実施してみて分かった不備や改善点などのフィードバックを得やすくなるからだ。お金を介する仕組みを作り、データに向き合う緊張感を高めることで好循環につなげている。
企業活動のあらゆる場面にデータを浸透させようとする大阪ガスだが、大量の人員を割いているわけではない。ビジネスアナリシスセンターのメンバーは現在、わずか9人の少数精鋭だ。
しかも統計やデータサイエンスを専門的に学んだメンバーはいない。同センターの岡村智仁所長は「ただ高度なだけの分析では意味がない。ビジネスにどう役立つかを意識することが大切。そのためには様々な視点のアイデアを生み出す人材の多様性が必須」と話す。
メンバーは四六時中パソコンにかじり付くのではなく、業務の大半はメンテナンス拠点やガスシステムを納入する顧客企業の現場などに赴き、どの機器にセンサーを取り付けると、どのようなデータを収集できるかといった情報を集め、活用法を探っている。それには「ITスキル以上に現場の人間とコミュニケーションを深める能力が求められる。データ分析はソフトウエアの進歩で、従来に比べ深い専門知識がなくても可能になった。分析結果を実際にビジネスに役に立ててもらうための行動力が大切」と岡村所長は指摘する。
非エネルギーで利益の3割
●大阪ガスと関連業界の勢力図


効率化の原動力となっているビジネスアナリシスセンターについて本荘社長は「人員増を含め、強化していく」と意気込む。今後の課題はガス以外の事業にもどう浸透させていくかだろう。
東京ガスのような圧倒的な顧客基盤を持たない大阪ガスは、以前からガス製造・販売から派生した事業を展開してきた。今では非エネルギー事業が利益の3割を占める。エネルギー関連で9割超を稼ぐ東京ガスとは対照的だ。
携帯向けカメラレンズ樹脂で一時世界シェアトップとなり、木材の保存剤でも国内シェア首位を誇る大阪ガスケミカルなどの材料事業。あるいは不動産や情報システムといった主要子会社による非エネルギー事業がグループ全体の利益水準を押し上げている。今後は得意とするデータ分析を、こうした事業にも積極拡大し、グループ全体の業務効率化を磨くことが求められる。
自由化によりエネルギー業界は企業の実力が試される時代に入った。今後は従来の枠組みを超えた合従連衡が進む可能性もある。そんな中、電力会社などに比べ規模が小さい大阪ガスは、規模とは違う次元で競争力を高めなければ劣勢に立たされかねない。
本荘社長も「競争が激しくなる中、ガス会社という旧来の枠を超えたビジネスモデルを構築できないと生き残れない」と強調する。それぞれの事業が持つ競争力を高めるために、現場を知る社員が、現場で取れたデータから改善策を探る。それが自由化の乱戦を生き延びるカギになる。
(武田 健太郎)
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