営業からトラブル対応まで効率化
市場のすみ分けが終わった今、どう生き残りを図るのか。「価格競争ばかりでは消耗する。データ分析を生かした業務効率化と、顧客サービス向上が長期戦では必要となる」と本荘武宏社長が力を込める。短期的に契約数を追うのではなく、顧客満足度を高め、ガス・電力両方の契約につなげる。そうして世帯ごとの収益力を高めていくという将来像を描いている。その武器として徹底活用するのがデータ分析だ。
実は同社のような公益事業を展開する会社は料金計算や顧客管理のために先行してコンピューターの導入が進んでいた。各社は1990年代後半からデータ分析を使用量の予測などに生かしていた。大阪ガスではそれを一歩進め、培った分析ノウハウを他の分野に応用し始めた。
2000年度にはビジネスアナリシスセンターを正式発足させ、その姿勢を明確にした。ここは社内のあらゆる事業を効率化する「知恵袋」としての役割を果たしている。
電気とお湯を同時に作れる家庭用燃料電池「エネファーム」でのデータ収集を16年に開始したのもその一つ。各家庭での発電状況や電力・ガス消費のデータを常時分析できるようにした。対象は現在約3万世帯に上る。


エネファームは他のガス会社も提供している。しかし、データを分析できる世帯数は、東京ガスが数百程度とまだまだ少ない。文字通り大阪ガスが他社よりケタ違いのデータ収集が可能なのは、最初からデータを取得する前提でシステムの提供方法を考えてきたからだ。他社はエネファームに専用の有線LANを接続する仕組みなのに対し、大阪ガスは、導入家庭の無線LANを利用し、そこから集中的にデータを蓄積できる設計とした。
成果は出ている。修理対応の効率化だ。エネファームの稼働状況とトラブルの関係から故障に至るパターンを見いだした。複雑な発電系統のトラブルなどを含め、従来は平均3時間かかっていた故障対応を2時間に短縮した。
このほか、販売データを活用してガス機器の展示会開催地を決めたり、交通渋滞情報などを使ってトラブルに対応する緊急車両の配置を時間帯や曜日ごとに細かく変えたりするなど、営業からトラブル対応まで幅広く改善に結びつけている。ビジネスアナリシスセンターは、こういったデータ分析案件を、年間30案件受け持っている。
今、目指しているのは省エネサービスの提案にデータを活用することだ。各家庭のガス機器や電気製品の利用状況を分析した結果、「関西で平均気温が17度に下がると多くの家庭が床暖房を使用開始する」といった行動パターンが分かった。今後、そうした情報を基に、それぞれの顧客に最適な機器の使い方を提案していく考えだ。


守備範囲は経営の意思決定にも及ぶ。福島県・相馬港で20年春稼働予定の天然ガス火力発電事業。石油資源開発などと手掛けるこの事業に出資する際も、日本各地にある発電所の送電状況や需要予測、気象データを駆使し、発電所がどのような稼働状況で、いくら利益を上げられるか綿密な予測を立て、参画の是非を判断した。LNG調達でも、世界のエネルギー需要や資源価格の変動などのデータ分析を活用。産出コストが低下した米国産シェールガスの輸入などの判断に役立てた。
もっとも、データを分析すればすぐに実際のビジネスの効率化につながるとは限らない。
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