企業向けオフィス文具通販という、従来のアナログな事業モデルから脱却を急ぐ。ヤフーの出資を受け個人向けネット通販の拡大を狙うが、アマゾンとは違う道で存在感を高める考えだ。メーカーと一心同体で、マーケティングや商品開発に取り組み、次世代EC(電子商取引)を先導する。
アスクルの物流センターで、出荷を待つ段ボールの数々。消費者のライフスタイルの違いにより、注文される商品の組み合わせは千差万別だ(写真=北山 宏一)
8月下旬、東京・豊洲にあるアスクル本社では、同社が2012年に資本業務提携したヤフーと立ち上げた個人消費者向けのネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」をめぐって、あるミーティングが開かれていた。
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今年の秋、ロハコでどんな販促キャンペーンを展開していくのか。活発に意見が交わされる様子は何の変哲もない社内会議のようだが、よくよく目を凝らすと参加メンバーの胸には来客用の入館カード──。場所はアスクル本社なのに、このミーティングに出席しているのはアスクル社員ではない。
競合メーカー、力をあわせ研究
それもそのはず。参加していたのはロハコに商品を納入しているメーカーのマーケティング担当者。アスクルが主催し、ECならではの商品開発や販促を共同研究する「ECマーケティングラボ」が開かれていたのだ。初開催は2014年。3期目の今年は食品や日用品、製薬など幅広い業種から約100社がメンバーとして参加する。同じ業種の競合メーカー同士が顔を合わせることもあるが、そんなことはお構いなしだ。
メーカーとタッグを組んで EC時代の「ヒット」を生み出す
●ロハコで展開するECならではの売り方
この日の議題の中心は「まとめ割」と呼んでいるセール企画について。対象商品のリストに入っていれば、商品の種類や購入数に応じて一定の割引を受けられるというものだ。複数のメーカーやジャンルの商品も様々に組み合わせられる。消費者は「セットで割引されるなら、ついでにこの商品があってもいい」と考えるため、メーカーにとっては新規顧客の獲得につながる有力な販売ツールとなっている。
どんな商品を対象にすれば、秋の「まとめ割」として効果が上がるか。食品メーカーが「ハロウィーンパーティーにぴったりの時短調味料があります」と呼びかければ、製紙会社からは「パーティーに欠かせないウエットティッシュ」、製薬メーカーからは「ドライブ用に酔い止め薬」との提案があがった。
これだけ多くのメーカーがなぜ、アスクルと一緒にECを研究するのか。それはロハコが嗜好品の単品買いが中心である「第1世代のEC」ではなく、食料や日用品など普段使いの商品を買う「第2世代のEC」だからだ。
●ロハコ向けの独自デザイン商品
キリンビバレッジが販売している麦茶飲料の「moogy」
花王の「リセッシュ」の限定パッケージ(それぞれ右)。店頭で目立つ必要はないので、部屋に置いてもおしゃれなデザインにすることができる(写真=北山 宏一)
どういうことか。ロハコの品ぞろえはスーパーと似ている。利用者は「クッキーと清涼飲料水と洗剤」といった具合に、日々の生活に必要な商品を思い思いに組み合わせて買う。すると「この商品はあの商品とセットで買われやすい」などの購入パターンがデータとして次々と蓄積される。
アマゾンや楽天市場のように書籍や家電、地方の名産品を単品買いする「第1世代のEC」であれば、商品そのものの魅力や安さ、あるいは配送の速さが重要になる。一方で生活必需品を買う「第2世代のEC」であるロハコでは、商品そのものでは違いを出しにくいため、サイト上での魅力ある「売り場」づくりが重要になる。メーカーがECマーケティングラボに熱をあげるのは、アスクルが販売関連のデータを思い切って公開し、それを自由に分析することができる環境を整えているからだ。
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