インダストリー4.0でも注目

 SAPが注目を集めているのはスポーツだけではない。ドイツが国家プロジェクトとして推進し、日本政府も成長戦略に位置づけるインダストリー4.0もその一つだ。インダストリー4.0は、IoT(モノのインターネット)時代の新しい産業を創造するコンセプト。単に製品を販売するだけでなく、製品の利用状況といったデータをネットワーク経由で取得し、そのデータに基づくサービスの実現などを目指す。

 カギは、生産、販売、保守など従来は分断されていた現場業務をつなぐソフトにある。SAPはこの分野で既に実績を重ねており、シーメンスやボッシュなどの独メーカーと共に世界標準づくりに関わっている。

競合他社をしのぐ成長率
●SAPと企業向けソフト大手の業績比較
注:1ユーロ=1.11ドルで換算。円の大きさは売上高を表す。売上高の年平均成長率は直近5年の数値で算出
出所:直近の決算発表資料を基に作成

 医療分野でも、SAPは存在感を増している。がん研究をリードする米国臨床腫瘍学会(ASCO)が2015年、「パーソナライズド治療プロジェクト」を始めた。米国の複数の医療機関と連携し、がん患者データベースを構築。これを解析し、それぞれの患者に合わせたがん治療を目指す。SAPは100万件を超す患者の治療履歴を基に、治療方法を研究するソフトを開発した。

 さらに、米スタンフォード大学とは難病の原因を特定するための遺伝子解析プロジェクトを始めている。

 スポーツ、インダストリー4.0そして医療情報解析と、SAPが開発したソフトは幅広い分野で活用されている。事業の広がりを反映し、業績も好調だ。直近5年の売上高平均成長率は年率で約10%。競合する米IBMや米マイクロソフトに規模でこそ及ばないものの、その成長性では凌駕している(上の図)。時価総額も8月17日時点で約966億ユーロ(約11兆円)と、独企業で最大だ。

企業の新サービスを次々と創造

 1972年に創業したSAPは、ERP(統合基幹業務システム)ソフトを開発するベンチャーとして産声をあげた。ERPソフトは社内の会計、生産、販売など基幹業務のデータを一元的に管理することで、経営資源の最適な配分を目指すものだ。ERPソフトが登場するまで、これらのデータはそれぞれのシステムがばらばらに管理していた。

 規模の拡張が容易なことや、各産業に特有の商習慣に対応する柔軟性を支持する企業が、SAPのERPソフトを次々と導入した。今では大手企業のERPソフトとしてデファクトスタンダード(事実上の標準)の座を確立。ユーザーは世界30万社を超え、世界企業に絞れば8割以上のシェアを握るとされる。IT(情報技術)部門の担当者なら知らぬ者はいない存在に成長した。