米オラクルや米IBMなどと並ぶ、企業向けソフトの世界大手。クラウドの普及で脅かされた既存事業に代わる、新事業の創出に成功した。強すぎる製品を持つがゆえに陥った「イノベーションのジレンマ」を克服。第2の創業に突き進む。

欧州最大の企業向けソフトウエア会社。米IBMを辞めた5人の技術者がドイツで1972年に創業した。2015年12月期の売上高は約208億ユーロ(約2兆4000億円)、営業利益は約42億ユーロ(約4700億円)。時価総額は約966億ユーロ(約11兆円)と独企業で最大。SAPはドイツ語で「Systemanalyse und Programmentwicklung(システム分析とプログラム開発)」を意味する。(写真=Clive Mason/Getty Images)
8月21日に閉幕したリオデジャネイロ五輪。日本人選手のメダルラッシュに沸いた今大会は同時に、「データ解析」が競技に本格的に普及した大会としても記憶されるかもしれない。
ドイツのセーリングチームは4年前から、科学的なデータ分析に基づく練習メニューの開発を進めてきた。選手が操るボートにセンサーを取り付け、位置情報や風速、風向きなどの情報を取得。それらを解析することで、実戦での戦術作りに役立てる。リオでも、会場となるマリーナ・ダ・グロリア湾の状況を事前に分析。選手は「風速がこのくらいなら、波の高さはこの程度」といった情報を頭にたたき込み、本番に臨んだ。結果は見事にメダルを獲得。戦力の底上げに大きく貢献した。
それ以外にも、サッカー、テニス、馬術などの競技において、データを戦術に生かす選手や、選手育成に役立てるチームが多数あった。
スポーツにデータを生かす動きは従来、一部の競技にとどまっていたが、ある企業がその幅をぐっと広げた。ドイツに本拠を置く企業向けソフト大手、SAPだ。セーリングチームも、SAPが支援している。
同社がスポーツの世界で一躍注目を集めたのは2014年。この年に開催されたサッカーのブラジルワールドカップで、SAPが支援したドイツ代表チームが優勝した。SAPはこの時、独チーム向けに、試合の録画映像を再生しながら選手の移動距離やパスの成功率などのデータを同時に俯瞰できるソフトを開発した。
選手や監督は任意の試合場面を再生し、ポジション取りや間合いの詰め方などを確認できる。戦術の共有や試合相手の分析に大いに活用されたソフトは「12人目の代表選手」として、メディアで大々的に取り上げられた。
以来、SAPのスポーツビジネスは急速に拡大している。サッカーではドイツ1部リーグの強豪バイエルン・ミュンヘン、英プレミアリーグのマンチェスター・シティなどがソフトを採用。元日本代表監督の岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治、日本代表選手の本田圭佑氏が実質的なオーナーになっているオーストリア2部のSVホルンもSAPと契約を結んだ。
支援する競技は現在、テニス、ゴルフ、バスケットボール、ラグビーなど10種目以上に拡大している。選手やチームの強化だけでなく、スタジアムの観客動員数を増やすためのマーケティング施策やチケット販売の仕組みなど、スポーツビジネス全般を支援するシステムも開発し、契約数を伸ばしている。
●企業向けERPソフト以外に広がるSAPの事業範囲



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