施工不良や工程混乱が続発し、2015年度は度重なる業績予想の下方修正に追い込まれた。伝統ある「モノ作り企業」の威信をかけて、業務の総点検や事業の構造改革に着手した。問題の再発防止と抜本的な利益率の改善で汚名返上を期す。

<b>多数の溶接不良がインドネシアの工場で発生。膨大な配管をつなぎ、張り巡らせるボイラーの品質は溶接が左右する(兵庫県の相生工場)</b>(写真=福島 正造)
多数の溶接不良がインドネシアの工場で発生。膨大な配管をつなぎ、張り巡らせるボイラーの品質は溶接が左右する(兵庫県の相生工場)(写真=福島 正造)

 5月、IHIのボイラー拠点、相生工場(兵庫県相生市)を3人のインドネシア人技術者が訪れた。ジャカルタ西方のチレゴンにある現地法人で、製造部などの責任者を務めるベテランたちだ。

<b>インドネシアの工場幹部(緑色のヘルメット)を相生工場の製造ラインに案内。丁寧な作業の必要性を再確認</b>
インドネシアの工場幹部(緑色のヘルメット)を相生工場の製造ラインに案内。丁寧な作業の必要性を再確認
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 「私たちは運命共同体。業務をスムーズに進めるにはどうしたらいいか、これからは遠慮なく意見をいってほしい」

 そこかしこで溶接の火花が散り、蒸し暑い現場を案内しながら、村角敬工場長は語りかけた。

 チレゴン工場は相生工場の「サブ工場」のような位置付けで、ボイラーの部品製造を担当している。来日した3人は3日間にわたり相生の製造工程や技能水準をじっくりと確認して回った。

 それから1カ月。

 「作業を平準化したい。この製品の出荷スケジュールをずらせないか」

 相生工場の新村崇・工務グループ課長代理はテレビ会議でのチレゴン工場側からの提案に、前向きな変化の兆しが出てきたと感じている。

 これまで相生とチレゴンの両工場は、現場レベルの関係が必ずしも緊密ではなかった。連絡は現地に駐在する日本人社員を介したものが多く、一方的になりがち。互いの置かれている状況や本音が、よく見えていなかった。

 そこでこの4月から、製造や品質管理など職務ごとにカウンターパートとなる担当者を明確にし、直に意思疎通する体制に改めた。

 今秋からは、日本でのインドネシア人技術者の研修を本格的に始める。チレゴン工場幹部の視察は、その地ならしのためでもあった。新たな体制で、技能力の強化はもちろん、双方の顔が見える関係を構築することを狙う。

同時多発の溶接不良に驚愕

 相生工場がチレゴン工場との関係に腐心するのにはわけがある。

 「ショックで考えられない事態。モノ作り企業として恥ずかしい」

 今年2月の決算説明会で、斎藤保社長(当時、現・会長)はぶぜんとした表情で語った。一体何が起こったのか。

 チレゴン工場が手掛けた日本国内外の発電所向けボイラー4案件で、施工不良が見付かったのだ。出荷前の水圧試験の結果、多数の溶接箇所で必要な耐久性を確保できていないことが判明。原因は、指示と異なる材料を使って溶接するという、初歩的な不手際だった。

 チレゴン工場ではこれまで、IHI経由の製品だけでなく、「自主営業」と称して地元を中心に独自裁量による受注を拡大。工場の採算確保のための自主営業は、IHIの海外拠点では特異な例ではなく、ある程度容認されてきた。

 しかし、分業の中で日本からの目が届きにくくなっていた。プロジェクトの工期のずれ込みなどで、IHIが受注した「本業」も含めて負荷が一時期に集中。平常時、約900人だった人員は繁忙ピークの2013年夏には1500人程度に膨れ上がり、従業員への教育が追いつかなくなった。この時期に、ずさんな溶接が相次いだ。

 火力発電所のタービンを回すのに使うボイラーは「配管のお化け」とも呼ばれる。大きめの100万キロワット級の場合、ボイラーは数十m四方の大きさとなり、高温高圧の蒸気を作るため張り巡らされた配管の総延長は800km、溶接箇所は10万に上る。

 その中で1カ所でも溶接不良があると、そこから蒸気が噴き出してしまう。相生工場で二十数年働くベテラン技術者は、「一人ひとりのモラルが問われる」と自戒を込めて語る。

 品質管理体制の仕切り直しに向け、チレゴン工場は自主営業を停止し、人員を900人規模に戻した。現場では溶接材を取り違えないよう、材料ごとに受け渡し窓口の色を塗り分け、溶接箇所にも同様な色のシールを貼った。

 相生工場との日常的なやり取りが積み重なれば、自然な形で現地の状況を把握でき、従来以上にプロとしての当事者意識がチレゴン工場でも醸成されるはず。そんな姿を描く。

 IHIを襲ったモノ作りのトラブルはボイラーだけではなかった。

 2つ目は海洋関連の事業。シンガポール向けのドリルシップ(資源掘削船)が端緒となった。過去、IHIはドリルシップを製造した経験はなかったが、「(広い意味での)船なら大丈夫だ」と勇んで2013年に受注した。

 しかし実際に手掛けてみると、設計の特殊性などに大苦戦。この影響がノルウェー向けのFPSO(浮体式原油・ガス生産貯蔵積み出し設備)、LNG(液化天然ガス)船用のアルミ製「SPBタンク」にもドミノ倒しで及んだ。順次計画的に生産するはずだったもくろみが外れ、一連の工程全体が混乱した。

 そして3つ目。2015年3月、トルコ・イズミット湾の横断橋建設現場で、つり橋のケーブルを架設する足場が海に落ちる事故が発生した。現地調達した足場固定用の金具が必要な耐久性を満たしておらず、壊れたのが原因だ。

損失拡大で3度の下方修正

 主にこれら3つのトラブルにより、補修や工期挽回のための人材や資材の緊急投入による追加コストが発生。さらに、納期遅延に伴う損害賠償に備えるコストを2015年度は逐次計上した。

攻めと守りを繰り返し安定成長果たせず
●IHIの業績
攻めと守りを繰り返し安定成長果たせず<br/> ●IHIの業績
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 その結果、連結純利益の予想を3度にわたって下方修正するという事態に陥り、当初490億円を見込んでいた連結純利益は15億円にまで落ち込んだ。 東京・豊洲(江東区)の本社周辺に保有する虎の子の不動産を売却したことによる特別利益290億円弱を計上することで、辛うじて最終赤字は回避できた。同じ手はそう何度も使えない。

 溶接不良に設計不備、そして調達部材のチェック不足。トラブルの中身や原因は違う。事業内容もボイラー、海洋、橋梁とバラバラだ。

 だが、突き詰めれば共通の要因が浮かび上がる。続発したトラブルについての社内調査委員会を率いた朝倉啓取締役は、「成長を追求した前回の中期経営計画でリスクマネジメントに緩みが生じた」と話す。

 モノ作りのトラブルによる損失はこれが初めてではない。2007年度には受注案件で想定外の大規模損失が発生し、過年度決算の修正にまで至る会計問題を引き起こした。そのためリスク管理を徹底する再発防止策に取り組み、社内の意識改革に一定の成果を上げつつあった。

 内外に復活を印象付けるべく立案されたのが、2013年度を起点とする前述の中計だ。最終年度の2015年度には、それまで1兆2000億円台だった売上高を一挙に1兆4000億円へと引き上げる目標を掲げた。

 その結果、整備した社内のチェック部門の慎重論は脇に追いやられ、採算や生産の面での実力を超える受注獲得に走った。それが同時多発的、しかも予想を大きく上回るトラブルとして顕在化した。

「利益率7%」へ撤退ルール

 非常時モード漂う今年4月にスタートした、新しい3カ年の中計。最終年度の2018年度に向けたテーマは、モノ作り再生と収益力強化に尽きる。

 モノ作り再生では、現場の教育訓練に加え、大型プロジェクトについて担当部署以外の専門家を交えて客観的にリスクを評価する制度を導入。問題発生時に早期に把握し、必要な対応策を迅速に講じられるような仕組みを整えた。

 中計の滑り出しに合わせ、これまであまり見慣れぬ会合が社内で開かれた。そろったのは調達、設計、生産、品質管理などから20人近い幹部。「現場の課題の共有なくして競争力は高まらない」との見解で一致。部門間の風通しをよくするため、今後も定期的に行う。

 最も重要な目標が最終年度の売上高営業利益率7%(2016年度予想は4.1%)。営業利益は2016年度予想の2倍弱の1190億円、売上高は6%増の1兆7000億円を目指す。前の中計への反省から、売上高は参考値にとどめた。

 それでも、2016年度予想の営業利益は低い水準ではない。一過性の生産トラブルの影響がほぼなくなり、前年度に比べて約3倍の650億円と過去最高更新を見込む。過去の実績から見れば7%は野心的に映る。特に、今後は利益の稼ぎ頭である航空エンジンが製品の世代交代を迎え、収益面では端境期となるだけになおさらだ。

 その分、世界的な需要拡大が期待できるボイラーや車両過給機(ターボチャージャー)などを強化する一方、採算管理の徹底で他部門でも収益を稼ぐのが基本となる。それでも、従来の延長線上では達成はおぼつかない。

 IHIには「航空・宇宙・防衛」など4大セグメントの下、多少整理してきたとはいえ、大小含めて依然27の事業群がひしめく。航空エンジンなど市場で優位な地位を占める事業もあれば、そうでないものもある。後手に回っていた選択と集中にいよいよ本腰を入れる。 

多岐にわたる事業の選択と集中を本格化する
●IHIには4つのセグメントに27の事業がある
多岐にわたる事業の選択と集中を本格化する<br/> ●IHIには4つのセグメントに27の事業がある
将来性に懸念のある事業は2017年度末までに「撤退・売却・縮小」も。
営業利益率やROIC(投下資本利益率)などで判断
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セグメントによって収益力に開きがある
●2016年度予想の連結営業利益と利益率
セグメントによって収益力に開きがある<br/>●2016年度予想の連結営業利益と利益率
注:全体の額は調整額を差し引いた数字
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 中計では、営業利益率やROIC(投下資本利益率)などから判断し、将来性に懸念のある事業は2017年度末までに撤退や売却などに踏み切るとしている。全体の利益率の足を引っ張ると見なされれば存廃に直結するだけに、いや応なく危機感が高まる。

 パーキングなど9つの事業が属する「産業システム・汎用機械」セグメントを統括する大谷宏之取締役は「目立たずおとなしくやっていればよい時代は終わった」と気を引き締める。新たな中計がスタートし、同セグメントでは8事業が「要・収益改善」に分類されたためだ。

海洋関連事業が再編の焦点

造船・海洋部門の再編は終わったかに見えたが
●これまでの主な動き
1853年 石川島造船所の創設(IHIの源流)
1945年 石川島重工業に社名変更
1960年 石川島重工と播磨造船所(現・相生工場)が合併し、石川島播磨重工業(現IHI)が発足
1995年 IHIの船舶部門と、住友重機械工業の艦艇部門の共同出資で、マリンユナイテッド(MU)を設立
2002年 船舶海洋事業を分社化。MUと統合し、アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド(IHIMU)を設立
2013年 IHIMUとJFE系のユニバーサル造船が経営統合、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)が発足
<b>造船部門は切り離したが、海洋関連の一部はIHIに残っている(愛知県知多市の愛知工場)</b>
造船部門は切り離したが、海洋関連の一部はIHIに残っている(愛知県知多市の愛知工場)

 構造改革の焦点の一つとなりそうなのが海洋関連事業だ。1995年以降、IHIが徐々に切り離した造船部門は現在、ジャパンマリンユナイテッド(JMU、IHIとJFEホールディングスの持ち分法適用会社)へと集約された。

 経営資源の最適化の観点では、海洋関連の人材や設備はJMUへ合流させるのが合理的なはず。ただ、IHIの収益力などを巡る当時の経営判断から、中途半端な状態が続いている。元は造船所だった愛知工場(愛知県知多市)はIHIに残り、操業水準を高めようと手を出した海洋構造物で、生産トラブルに見舞われた。

 目下、愛知工場の問題解決にはJMUも協力している。海洋関連事業や愛知工場をグループ全体としてどう位置付けるのか、いずれは決断が必要になる。このままでよいのか、事業撤退や攻めの再編が必要なのか。JMUなども含めた協議へと発展する可能性を秘める。

 一連の策で抜本的な利益率改善は可能か。大和証券の田井宏介チーフアナリストは「コスト削減や赤字事業の選別などの余地は十分に残っており、営業利益率7%の実現性は自助努力次第だ」と指摘する。

三菱重工は実利重視で先行

 参考にすべき存在は身近にいる。日立製作所や独シーメンスとの事業統合など、近年、構造改革を活発化する三菱重工業だ。自前主義を捨て、実利重視で事業を大胆に組み替えた結果、営業利益率は7%を超えて推移する。

 建造に苦戦する豪華客船のコストを特別損失に計上している面は割り引く必要はあるが、営業利益は右肩上がり。収益基盤を着実に底上げしつつある。

 くしくも、三菱重工が関与する形でIHIの構造改革が動き始めている。主役は神奈川県のIHI系の拠点で現在組み立てが進むトンネル用シールド掘進機。国内最大級の直径16mで、近く東京外かく環状道路(外環道)の建設現場に投入する。

 IHIと三菱重工は10月1日をめどにこのシールド事業を統合し、新会社はこの事業でもともと強いIHIの子会社となる。統合によってシェアは50%超(本誌推定)に向上。国内での強さを背景に海外市場でも攻勢に出る。

 足元では英国の欧州連合(EU)離脱で中計の前提(1ドル115円、2018年度)以上に円高が進むなど、経営環境の先行きは決して楽観できない。利益率7%を射程内に入れるには、モノ作り再生という地道な改革で成果を出すことが最低の条件となる。その上で、シールドのように攻めに転じるにせよ、低採算事業を切り離すにせよ、事業の構造改革が欠かせない。

 IHIが6月24日に東京都内で開いた株主総会。過去最多の1448人の株主が詰めかけ、経営陣に業績改善への覚悟を問うた。関心の高さや批判は、期待感の裏返しとも言えるが、悠長に構える余裕はない。

INTERVIEW
満岡次郎社長に聞く
現状の事業群に固執する気はない

2015年度の業績下振れをどう振り返るか。

 「成長というキーワードで規模拡大に少し注力しすぎたために、適正なリスク対応ができていなかった。経営システムなり組織に問題があった。ボイラーの溶接不適合では、相生工場の品質がきちんとインドネシア工場に移転された『はず』、で終わっており、実際はそうなっていなかった」

(写真=大槻 純一)
(写真=大槻 純一)

モノ作りを再生し、再発防止を図るには何が必要か。

 「新しい形のプロジェクトの審査・遂行体制に変えた。あらゆる段階でリスクを評価し、リスクへの対応計画を適正に立てているか、徹底して検証していくよう改めた。品質管理など業務全体の再確認、再構築を急ピッチで実施している。PDCAサイクルを回すスピードも上げている」

利益率を重視した新しい中期経営計画の勝算は。

 「2018年度の営業利益率7%は必達目標だ。コスト削減や調達効率化の余地はまだある。プロジェクト遂行に当たってはある程度リスクを織り込んでいるが、現場の実力が向上し、各部署の連携が機能すれば、リスクバッファーに手を付けなくて済むようになる。利益改善の大きな種になる」

事業の選択と集中をどう進めるか。

 「今回は2年以内とはっきりと期限を切った。今ある27の事業群をどうする、という数値目標ありきではないが、現状の事業群に固執する気は毛頭ない」

 「タコツボ化を排除し、もっとグループ内の連携を積極化していくべきだ、というのが私の明確なメッセージ。グループ外とのパートナーシップについても柔軟に考える。変化の激しい時代では先手をしっかり打つことが収益基盤の強化につながる」

 「4つの事業領域(セグメント)のトップには傘下の事業に関する責任と権限を明確に持たせた。各事業領域は自分で投資したいキャッシュは自分で稼ぐのが大原則。資産効率を高める上で、コーポレート部門への甘えは許されない」

英国の欧州連合(EU)離脱で円高が進んでいる。

 「離脱はサプライズだった。2016年度業績予想の前提(1ドル110円。IHIの為替感応度は1円変動当たり営業利益10億円)よりも円高に大きく振れており、状況の変化に迅速に対応する必要がある。コスト削減や事業のてこ入れを急ぎたい」

(寺井 伸太郎)

日経ビジネス2016年7月11日号 52~56ページより目次

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