
このため、CCCは事業モデルの「見本」として直営店を出店してきた。皮切りは2011年12月にオープンした商業施設「代官山 T-SITE」(東京・渋谷)だ。増田社長個人が数十億円を投資し、1万3000m2の土地の半分を取得。カフェと書籍を複合して居心地を重視した「蔦屋書店」だけでなく、レストランやペットサービス店をそろえた複合的な商業施設を作り上げた。

その後も、15年には初めての家電店「二子玉川 蔦屋家電」、16年には大阪府枚方市の近鉄百貨店の跡地に、大型商業施設「枚方 T-SITE」を開業した。17年4月には、銀座の高級テナントビル「ギンザシックス」に美術関連の書籍を充実させた「蔦屋書店」を開業。オープン後、約1カ月で8000万円を売り上げる勢いだという。11年以降の直営の開業施設数は16に上る。
業容拡大の結果は、少しずつ数字に表れている。同社は非上場企業で業績は非公開だが、15年度まで売上高は5期連続増収。営業利益は3期連続で増えているようだ。
元来、DVDなどソフトのレンタル店「TSUTAYA」のチェーンをFC中心に広げてきたのがCCCのモデルだ。それがなぜ今、矢継ぎ早に直営の新たな店舗を開発しているのか。「変身」を急ぐ背景には、従来のレンタル事業に対する危機感がある。
●TSUTAYAの店舗数と総面積の推移

音楽CDやDVDレンタルは、音楽・映像配信などネットビジネスの影響を直接受ける商品だ。日本映像ソフト協会によれば、レンタル市場は07年の3604億円から16年には1831億円と半減。音楽ソフトも、05年に4222億円あった生産金額は、16年には2457億円となっている(日本レコード協会)。CCCのレンタル事業やソフト販売事業も苦戦を強いられていることは容易に想像できる。直近5年で、FCを主体とする「TSUTAYA」の店舗数は、減少傾向にある。12年度末に1471あった店舗数は、16年度末までに約4%減少。現在は、1417店のうち、約600程度がレンタルとソフト販売の店舗で、残りは書籍や雑誌も販売する複合店舗だ。主にレンタルで稼いできた店舗が減少しているようだ。
レンタルの縮小という逆風に対して、CCCは「大型複合店」という処方箋をFC企業に提示してきた。単なるレンタル店ではなく、書籍やカフェとの複合店として集客力を高めることだ。TSUTAYAの店舗数が減る一方で、合計の売り場面積が増えているのは、各店舗が大型化しているからだ。FC加盟社が書籍の取り扱いを増やしたことで、CCCの書籍売上高は1308億円(16年1~12月)と国内最大規模を誇る。この数字は紀伊国屋書店の2016年8月期の売上高1059億円を上回る。
CCCに加盟するFC大手のトップカルチャーは、新規店舗ではレンタルの売り場を全体面積の10分の1程度にまで縮小しているという。「FC事業の中でも、ある程度資金力がないと生き残りは難しくなっている。今後はFCの中でも淘汰が進むのではないか」とトップカルチャーの清水秀雄社長は話す。 ただ書籍も映像や音楽同様、いつまでリアル店舗や紙の書籍の優位性が続くかは不明だ。米アマゾン・ドット・コムや電子書籍が今以上に市場を席巻することは間違いないからだ。書籍だけでどこまで「延命」できるかは分からない。そこで冒頭のような家電店や、大型商業施設「T-SITE」などへと、事業の幅を広げているのだ。
「ネット時代の小売業のあり方を提示する」。増田社長は繰り返し強調する。確かに書店、家電店、商業施設と、増田氏がレンタルの次に挑む事業はいずれも「リアル」の小売業。リアルの小売業を「生活提案」や「居心地の良さ」「時間消費」といったキーワードによって進化させようとしている。
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