「TSUTAYA」の看板でレンタル事業を軸に成長してきたカルチュア・コンビニエンス・クラブ。ネット時代の到来で、FC店主体の事業に強い逆風が吹き、創業オーナーの増田社長は正念場にある。逆境をバネに相次ぎ開く新型店舗の数々は、小売業の未来像を示せるか。
CDやDVDのレンタルを中心に展開する「TSUTAYA」の従来型店舗(写真=的野 弘路)
JR広島駅の南口に完成した銀色に輝く再開発ビル。その1~3階に4月14日、一見すると何の店なのか分からない商業施設が登場した。家電量販店大手のエディオンが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とフランチャイズチェーン(FC)契約を結び開業した「エディオン蔦屋家電」だ。
通りを挟んだ向かいには、同業大手のビックカメラが昨年9月に大型店を開いたばかり。広島に地盤を持つエディオンとしては負けられない戦いだ。
「友達から、面白いお店だと勧められたので、来てみた」。ゴールデンウイークに入った4月末の日曜日に来店した女性は話した。客がまばらなビックカメラに対して、エディオンは開業から2週間がたっても客でごったがえしていた。異業種のCCCとの提携という「奇策」は、「想定以上の集客と売り上げを上げている」(エディオンの久保允誉・会長兼社長)。
広島の「エディオン蔦屋家電」。家電を全面に押し出さず、書籍やカフェスペースが目立つ(写真=大亀 京助)
安売りの値札は排除
家電業界のアウトサイダーであるCCCのアイデアを全面的に取り入れた約1万m2の大型店は、多くの点で従来の家電量販店の逆を行く。各フロアの中央には、ラウンジや書籍、雑貨、文具売り場などを配置。その周辺を家電売り場が囲むような構成だ。
大量の家電を所狭しと並べて、安売りの値札をあちこちに貼り付けるような、従来型の家電店のスタイルとは無縁だ。開業時のチラシ配布も行わず、メーカーからの派遣店員も受け入れなかった。その代わり、プロのカメラマンや料理研究家などを従業員として雇い、売り場の「コンシェルジュ」として、丁寧な説明を心がける。いずれもエディオンにとってのみならず、家電量販店では異例の試みだ。
エディオンの久保社長はこう戦略を語る。「家電業界で同じことをやり続けていてはシェア拡大を望めない。価格競争だけでは疲弊することは自明だ。今までのような目的買いではなく、まず来てみたくなる店を目指した」
オープン前日の4月13日。新店の内覧会も、通常の家電店とは様子が違った。受付に置かれる名刺には高島屋、スーパーのユニーなど、家電以外の流通大手の社名も目立った。
会場にはもう一人、久保社長の横で名刺交換に応じる男がいた。CCCの増田宗昭社長だ。増田社長は名刺交換を求める長い列に、大阪弁を交えて笑顔で応じる。旧知の小売業大手の社長が挨拶に現れた際には「用意してくれればやりますよ」と、威勢よく答えていた。
小売業側が土地や建物などを準備してくれれば、CCCは自社が企画した最新型の店舗を、その企業と協力して開くことができる──。家電量販店だけでなく、競争激化と客足の鈍さに悩む小売業から、増田社長は「救世主」として注目されている。増田社長はエディオンのようなFCを増やす考えだ。
2011年12月に開業した「代官山T-SITE」。書店を核とした商業エリア
このため、CCCは事業モデルの「見本」として直営店を出店してきた。皮切りは2011年12月にオープンした商業施設「代官山 T-SITE」(東京・渋谷)だ。増田社長個人が数十億円を投資し、1万3000m2の土地の半分を取得。カフェと書籍を複合して居心地を重視した「蔦屋書店」だけでなく、レストランやペットサービス店をそろえた複合的な商業施設を作り上げた。
新型店舗の多くは、キッズスペースが充実している。写真は「枚方 T-SITE」。(写真=菅野 勝男)
その後も、15年には初めての家電店「二子玉川 蔦屋家電」、16年には大阪府枚方市の近鉄百貨店の跡地に、大型商業施設「枚方 T-SITE」を開業した。17年4月には、銀座の高級テナントビル「ギンザシックス」に美術関連の書籍を充実させた「蔦屋書店」を開業。オープン後、約1カ月で8000万円を売り上げる勢いだという。11年以降の直営の開業施設数は16に上る。
業容拡大の結果は、少しずつ数字に表れている。同社は非上場企業で業績は非公開だが、15年度まで売上高は5期連続増収。営業利益は3期連続で増えているようだ。
元来、DVDなどソフトのレンタル店「TSUTAYA」のチェーンをFC中心に広げてきたのがCCCのモデルだ。それがなぜ今、矢継ぎ早に直営の新たな店舗を開発しているのか。「変身」を急ぐ背景には、従来のレンタル事業に対する危機感がある。
店舗数は減少も、店舗面積は増加
●TSUTAYAの店舗数と総面積の推移
音楽CDやDVDレンタルは、音楽・映像配信などネットビジネスの影響を直接受ける商品だ。日本映像ソフト協会によれば、レンタル市場は07年の3604億円から16年には1831億円と半減。音楽ソフトも、05年に4222億円あった生産金額は、16年には2457億円となっている(日本レコード協会)。CCCのレンタル事業やソフト販売事業も苦戦を強いられていることは容易に想像できる。直近5年で、FCを主体とする「TSUTAYA」の店舗数は、減少傾向にある。12年度末に1471あった店舗数は、16年度末までに約4%減少。現在は、1417店のうち、約600程度がレンタルとソフト販売の店舗で、残りは書籍や雑誌も販売する複合店舗だ。主にレンタルで稼いできた店舗が減少しているようだ。
レンタルの縮小という逆風に対して、CCCは「大型複合店」という処方箋をFC企業に提示してきた。単なるレンタル店ではなく、書籍やカフェとの複合店として集客力を高めることだ。TSUTAYAの店舗数が減る一方で、合計の売り場面積が増えているのは、各店舗が大型化しているからだ。FC加盟社が書籍の取り扱いを増やしたことで、CCCの書籍売上高は1308億円(16年1~12月)と国内最大規模を誇る。この数字は紀伊国屋書店の2016年8月期の売上高1059億円を上回る。
CCCに加盟するFC大手のトップカルチャーは、新規店舗ではレンタルの売り場を全体面積の10分の1程度にまで縮小しているという。「FC事業の中でも、ある程度資金力がないと生き残りは難しくなっている。今後はFCの中でも淘汰が進むのではないか」とトップカルチャーの清水秀雄社長は話す。 ただ書籍も映像や音楽同様、いつまでリアル店舗や紙の書籍の優位性が続くかは不明だ。米アマゾン・ドット・コムや電子書籍が今以上に市場を席巻することは間違いないからだ。書籍だけでどこまで「延命」できるかは分からない。そこで冒頭のような家電店や、大型商業施設「T-SITE」などへと、事業の幅を広げているのだ。
「ネット時代の小売業のあり方を提示する」。増田社長は繰り返し強調する。確かに書店、家電店、商業施設と、増田氏がレンタルの次に挑む事業はいずれも「リアル」の小売業。リアルの小売業を「生活提案」や「居心地の良さ」「時間消費」といったキーワードによって進化させようとしている。
下降していた業績は盛り返している
●CCCの売上高と営業利益
注:2011年に非上場となったため、12年3月期以降の数字は、帝国データバンクの「調査報告書」を参照
紀伊国屋を抜き書籍・雑誌のトップに
●TSUTAYAと紀伊国屋書店の売上高
注:TSUTAYAは、当該年の1~12月の書籍・雑誌販売額。紀伊国屋書店は、8月期の売上高
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