トイレ国内シェア首位のTOTOが、この5月に創立100周年を迎えた。利用者の快適さにこだわり続け、社会の高齢化、グローバル化という時代の変化に対応する。M&Aでの規模拡大は追わない。自前による徹底した技術第一主義を貫き通す方針だ。

(左)研究者自ら多数のセンサーを身体に取り付け、快適に入浴できる浴槽を開発する(写真=陶山 勉)
(右)ドイツの見本市では早期の発売を望む声が上がった

 今年3月中旬、ドイツ・フランクフルトで世界最大級の水回り製品の見本市が開催された。5日間で20万人もの業界関係者が来場したイベントでとりわけ人だかりができたのがTOTOのブースだった。

 来場者が取り囲んでいたのは、青いライトに照らされた全長2mを超す大型浴槽。TOTOが見本市の目玉として出展したコンセプト商品だ。名称は「ゼロディメンション」。日本語に訳すならば「0次元」という意味になる。宇宙飛行のような無重力に近い感覚で入浴できるというのがうたい文句だ。

 従来型のバスタブとの最大の違いはその形状。底面が人間の身体のつくりに適した曲面を描く。仰向けに入浴すると、これまでのバスタブに比べ感じる重力が大幅に軽減されるという。TOTOは「寝浴(ねよく)」と銘打ち、新たな入浴スタイルを提案する。

 「早く発売日を決めてもらえないか。私だったら20台はすぐ売れる」。関心を持った欧州の販売代理店経営者らからはこんな声が上がった。欧州市場でのTOTOの存在感はまだ小さいが、実際に商品を販売する代理店には強い印象を与えることに成功したようだ。

 今年5月15日にTOTOは創立100周年を迎えた。日本国内ではトイレで6割のシェアを持ち、浴槽や水栓金具、システムキッチンなどを含めた総合水回りメーカーとして圧倒的な知名度を持つ。温水洗浄便座「ウォシュレット」など、独自技術を武器に水回り商品を開発。利用者の快適さを追求した商品を出すことで、新たな需要を掘り起こしてきた。今回の見本市で示した「寝浴」という新しいスタイルも開発陣による徹底した研究の成果だ。

入浴実験、1カ月に100回

 神奈川県茅ケ崎市にあるTOTO総合研究所。新型バスタブを生んだここでは、各種水回り商品の研究開発を進めている。

 働く研究者の顔ぶれは幅広い。祖業である陶器の素材や焼き方などを科学的に分析する人はもちろん、流体力学や電気工学、健康科学、スポーツ科学に至るまで各分野の専門家を集めている。総勢、数百人の研究者が、快適で利便性の高い商品開発を進めている。

 「1カ月で100回以上ここで入浴することもあります。全身がふやけてしまいますよね」。そう笑うのは中村遼太・研究員。所属は健康技術研究グループだ。職場である研究所3階には透明のバスタブが置かれ、中村氏は海水パンツ姿で毎日のように“入浴”する。

 腕や腰、膝など身体の10カ所以上にセンサーを貼り付け浴槽に身を沈め、重力による身体各部への負荷などを測定する。どんな形の浴槽が最も心地よいか、ミリメートル単位で調整する。脳の血流量をセンサーで測定し、リラックスしているかどうかも分析している。より多くのデータを集めるために1回の入浴が2時間以上になることも珍しくないという。

 こうして集めたデータから独特の形状を導き出したのが新型のバスタブだ。科学的な研究を基にした商品開発を強みとするTOTOは、洗練されたデザインで販売拡大を狙う海外の同業とは異なるアプローチを取る。それは1917年の創立以来のDNAだ。

 北九州市小倉で衛生陶器の製造を開始したTOTOの100年は、水回り環境でエポックメーキングな商品を生み出し、革命を起こした歴史と見ることができる。

 その一例が浴槽とトイレを一部屋に配置するユニットバスだ。登場したのは63年。舞台は戦後復興を遂げ、オリンピックに向けて建設ラッシュが進む東京だった。

 「時間が足りない」。五輪開催前に開業予定だったホテルニューオータニの建設現場から焦りの声が聞こえた。客室数が1000室以上の大規模ホテル。折からの人手不足でトイレやバスタブの施工技術者が確保できず、このままでは開業に間に合いそうもない。

 そこでTOTOは、工場であらかじめユニットバスを組み立て、エレベーターで現場に搬入する新たなタイプの商品を開発した。建設現場での工程を工場に移し替えるという新発想で、通常1部屋で1カ月程度かかる搬入・設置作業を、なんと1日に短縮。わずか3カ月半で全室への納入を完了させた。ユニットバスはその後、高度経済成長期に急速に拡大したホテルやマンションの需要を取り込んでいった。

 もう一つの画期的な商品は、温水洗浄便座の代名詞となったウォシュレットだろう。当初、米国から温水洗浄便座を医療用として輸入販売していたが、試しに使った社員から「心地よい」という声が上がり始めた。そこで医療用としてではなく、快適・清潔さを特徴とした一般向け商品として開発にかじを切った。

 もっとも、商品化は苦労した。利用者の体格や座り方の違いなどで、うまく水がおしりに命中しない。そこで、社員300人に試作品を利用してもらう人海戦術で開発を続行。ノズルから水を出す角度を地面に対して43度とする絶妙な配置を見つけ出した。

 80年に一般家庭向けとして販売を開始したウォシュレットは、今では国内事業での営業利益の4割強を生み出す主力事業へと成長している。