「日本の台所」と呼ばれた築地市場は、10月6日をもって営業を終了した。市場関係者は、3kmほど離れた豊洲市場に移転を完了、営業をはじめている。

(イラスト=小田嶋 隆)
(イラスト=小田嶋 隆)

 移転にともなって、関係者がとりわけ注意を払ったのは、ネズミを一緒に運んで行かないことだったのだそうだが、たしかに、ネズミごと移転したのでは、引っ越しの意義が半減してしまう。豊洲での市場業務は、ぜひともネズミゼロの清潔な環境でスタートしてもらわないと困る。

 当然、ネズミたちは置き去りだ。

 それもただの置き去りではない。新たな食料の供給が途絶された築地での生活は、彼らにとって、飢餓地獄そのものを意味している。側溝や配線路を起点とした縦横無尽の隠れ家も、11日から始まった解体工事が終われば灰燼に帰する。

 もちろん、築地のネズミとてこのまま座して死を待つことはしない。必ずや生き残るために最善を尽くすはずだ。

 彼らの生存戦略は、市場関係者と同じで、結局のところ移転しかない。というのも、都会のネズミの食い扶持と住処は、ほぼ100%人間の生活に依存しているからだ。

 さて、築地周辺の飲食店や病院(築地市場のすぐ向かい側に「国立がん研究センター」がある)は、早い段階から今日のあることを予測して対策を立てている。すなわち、「超音波防鼠機」を設置し、あるいは捕獲用の粘着シートや罠を各所に仕掛け、さらにはネズミの侵入経路となる小さな穴を可能な限りツブしにかかっている。

 各紙ならびにウェブメディアによれば、市場を管理する東京都は、ネズミの逃げ道をふさぐべく市場の外周をプラスチックの波板や金網で覆い、9月中旬から11月中旬にかけて計3万9000枚の粘着シートと、計320kgの殺鼠剤を投入。賢いクマネズミ対策として、「無毒のエサで餌付けしたうえで殺鼠剤にすりかえる」などの工夫をこらして、事態に対処しているのだという。

 このほか、築地が位置する自治体である中央区も希望する住民に8万3000枚の粘着シートを配布しているそうだ。

 万事対策に怠りはない。