ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を表明した(日本時間5月9日)。これまで、トランプ氏がほのめかしたり言い募ったり怒鳴ったりしてきたムチャの類いは山ほどあるわけだが、公式の決定として、これほどまでに無謀かつ無思慮な施策はなかったんじゃないかと思う。

(イラスト=小田嶋 隆)
(イラスト=小田嶋 隆)

 振り返ってみるに、トランプ大統領はこれまでに貿易の世界でTPP(環太平洋経済連携協定)離脱を決定し(また復帰を検討したりしているが)、環境問題においては、パリ協定の枠組みから外れている。

 つまり、彼は、前任者の推し進めてきた国際的な枠組みを破壊する挙に出ている。そう考えてみると、世界は、彼の出現によって、主要な協力関係をどんどん喪失しつつあることになる。

 いったいあの男はどこを目指し、何を成し遂げようとしているのだろうか。

 しかも、今回の決定について、トランプ氏は、まともな説明をしていない。ツイッターなどを通じてイラン政府を攻撃する発言を繰り返してはいるものの、米国が核合意から離脱することで、具体的にどんなふうに事態が改善されるのかという展望については、ほとんどまったく言及していない。

 とすると、彼がこの物騒な強硬策に打って出ている理由は、単に自分がタフネゴシエーター(手強い交渉家)であることをアピールしたいからなのか、でなければ、前任者たるオバマ大統領の政策を闇雲に否定したいかのいずれか、あるいはその両方ということになる。どっちにしても、マトモな判断であるとは考えにくい。

 主たる懸念は、今回の米国の決定が中東情勢を険悪化させるところにあるのだが、わたくしども東アジアの住民としては、それらとは別に、トランプ氏の振る舞い方が、近々開催が予定されている米朝首脳会談にもたらす影響にも注目しないわけにはいかない。