PROFILE
ジャーナリスト。1956年生まれ。英エコノミスト誌の元編集長。東京支局長を経験した知日派。『なぜ国家は壊れるのか』(PHP研究所)ではイタリアと日本の類似性などを分析。ドキュメンタリー映画の製作も手掛ける。
(写真=永川 智子)

「京都議定書を生んだ日本が取り組まずして、
他国が本気になれるはずがない」

 11月から12月にかけてフランスのパリで開催される第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)が近づき、地球温暖化に対する関心が世界的に高まっている。国際社会の一員として、日本もこの問題を避けて通ることはできない。

 地球温暖化の原因とされるCO2(二酸化炭素)排出量の削減という、各国が取り組むべき目的ははっきりしている。しかし、日本の長期的なエネルギーの議論を見ていると、果たして本気でこの課題に取り組もうとしているのか、首をかしげたくなる。日本はエネルギー源の3割をCO2排出量の多い石炭に依存しているが、その構造を今後も大きく変えるつもりがなさそうなのだ。

 経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会は、日本の長期エネルギー需給見通しを示している。この中に、将来の日本のエネルギー需要を何で賄うかを示す電源構成比の計画がある。それによると、2013年度の割合はLNG(液化天然ガス)43%、石炭30%、石油15%、再生可能エネルギー11%、原子力1%だった。

 エネルギー調査会ではこれが2030年度には、LNG27%、石炭26%、石油3%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%の割合になるという見通しを示している。

 ここで注目すべきは、CO2排出量の多い石炭の割合が、今から約15年たっても26%に達するという点だ。石炭への依存度を抑えた計画とは言い難い。一方で、本来はさらに比率を高めるべき再生可能エネルギーの割合は22~24%にとどまる。

 個人的には、これで石炭依存の構造から脱却したとは言えず、国際社会からCO2排出量を本気で減らす気があるのかと疑われても仕方がないと思っている。

 日本政府はCO2排出量を削減するための政策手段は持っている。2012年10月に施行した地球温暖化対策税、いわゆる炭素税だ。発電によって生み出されたCO2のコスト増大分を環境税として利用者にも負担してもらう。この税金を引き上げることで、石油や石炭といったCO2排出量の多いエネルギー源からの発電と消費を抑制し、CO2排出量が比較的少ない電源への転換を促す。結果的にCO2排出量の削減につながる。

 ところが、現実には日本政府はそのような変化を強く推し進める姿勢は見せていない。炭素税の税率を段階的に引き上げているものの、日本のCO2排出量1トン当たりのエネルギー課税額は、国際的に見ていまだ低い水準にとどまっている。

 果たしてこのような状況で、日本は2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減という目標を達成できるのだろうか。

 残念ながら、日本政府の気候変動問題に対する政策の優先順位は現状では低いと思わざるを得ない。炭素税の引き上げによるコスト増大を警戒する産業界や、利益を捻出できる石炭の利用を維持したい電力会社の影響力が政府に及んでいるのではないかと勘ぐってみたくもなる。

 本来、炭素税は低炭素エネルギー源への移行を促す有効な政策である。日本政府や財務省にはいま一度、その活用を本気で検討すべきだと訴えたい。

 これからの数カ月は、いや応なく気候変動やCO2排出量の削減に対する関心が高まるだろう。「京都議定書」を生んだ日本が、本気で取り組む姿勢を見せずして、どうして他国が環境保護に本気になれるだろうか。

 日本に対する期待は高いが、その責任もまた重い。

日経ビジネス2015年10月19日号 114ページより目次

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