PROFILE
富士フイルムホールディングス会長・CEO。1939年旧満州国生まれ。63年東京大学卒業、富士写真フイルム入社。2003年6月代表取締役CEO就任。写真フィルムに依存した事業構造を大転換した。
(写真=的野 弘路)

「 『正しく勝つ』のが企業の使命。正しくない行為は許されない」

 人間をはじめ生物は皆、何らかの争いや競争をしながら生き延び、生き続け成長している。生きることは戦うことだと言ってもいい。その戦いには勝ち、生き続けなければならない。少なくとも負けてはいけない。しかし人間は知性や倫理、優れた価値観を持つ、ほかの生物とは違った特別な存在であり、誇りや尊厳にかけたふさわしい戦い方が要求されている。暴力や嘘、トリックではなく、国家や企業は自身が持つ正しい価値をもとにオープン(開かれた)、フェア(公正)、クリア(透明)に正しい手段で戦うことが要求されている。

 九州で育った私は、子供のころ、両親から「曲がったことをするな」「卑怯なまねはするな」「正直であれ」「弱い者いじめをするな」「人様に迷惑をかけるな」「負けて泣くな」「姿勢を正しくせよ」等、繰り返し教わった。結果として私自身は今までの人生で、それを守り、オープン、フェア、クリアに戦ってきたし、生きてきたつもりである。

 私の経験を一つ話そう。私は30代半ば、営業課長としてオフセット印刷に使われる薄いアルミ板に感光材料を塗った「PS版」と呼ばれる新しい版材の販売を担当していた。ビジネスで「正しく勝つ」というのは自社の商品が採用されるだけでなく、それがお客様にとってより価値があるかが重要である。当時、私が担当したPS版の顧客は、ある新聞社だった。

 当時の新聞社は、1文字ずつ活字を拾って1ページ分の組版を作り、それを基にして雌型(めがた)の凹版に熱い鉛を流し込み印刷凸版を作っていた。この製作工程をコールドタイプにしたいというのが新聞社の課題であった。ある大手新聞社に、当社はこのPS版を使うオフセット印刷を提案した。一方、競合は感光性樹脂を使う凸版印刷を提案した。オフセット印刷はスピードが速く、仕上がりが鮮明で、システムとしての優位性は明らかであった。