PROFILE

伊藤忠商事元会長。1939年生まれ。食料分野を中心に活躍。98年に社長就任。4000億円規模の不良債権を処理し業績を回復。アジアへの造詣も深く2010年、民間出身では初の駐中国大使に起用された。

(写真=清水 盟貴)

「日本が中国に勝てるのは 誠実でチーム重視の『中間層』人材だ」

 米中貿易戦争が激しさを増している。米国が中国からの輸入を制限することで、短期的には中国に痛手になる可能性が高い。だが中長期的には、中国を利することになるだろう。

 米国市場から締め出された中国は、アジアやアフリカなどへの進出をこれまで以上に加速させるはずだ。既に「一帯一路」戦略で陸・海の両面で周辺諸国への影響力を強めている。世界最大の市場へのアクセスを制限されれば、国内に余剰の生産能力を抱える中国にとって、輸出先を確保するためにも周辺諸国との関係強化は一層不可欠なものとなる。

 今年は、日中両国が平和友好条約を締結してから40年となる。それを機に、中国が日本との関係を改善しようと動いているのは、こうした米中の覇権競争と無関係ではないと理解したほうがいい。

 習近平(シー・ジンピン)中国国家主席の訪日や、安倍晋三首相の訪中も検討されているようだ。自民党の総裁選もあるため、習主席の訪日時期は不透明である。とはいえ、来年の新元号スタートに合わせて、日中首脳がさらなる関係強化を目指す「第5の政治文書」を発表することになるのではないかと見ている。

 米中貿易戦争が今後数年は続くと予想すれば、中国が日本との関係を今以上に改善したいと考えているのは当然のことだ。しかも、日本には、まだ中国が決して勝てないものがある。それは、優れた「中間層」の人材だ。

 AI(人工知能)や宇宙などの先端分野を見れば分かるように、既に中国は技術面でほぼ日本を凌駕している。ヒト・モノ・カネの量的な側面は言うまでもないだろう。

 中国のリーダーたちが今、日本から学びたいと思っているのは、日本の中間層が持つ誠実さやチームプレーを重視する「文化」だ。中国は基本的に個人主義が根強く、企業内でも業界内でもチームプレーを重視しようという発想に欠けている。何かをしようというときに、グループでまとまるということが、ほとんどない。