PROFILE

伊藤忠商事元会長。1939年生まれ。食料分野を中心に活躍。98年に社長就任。4000億円規模の不良債権を処理し業績を回復。アジアへの造詣も深く2010年、民間出身では初の駐中国大使に起用された。

(写真=清水 盟貴)

「『ゆでガエル』になるな 目覚めよ、日本のエスタブリッシュメント!」

 先日、10年ぶりに日本に一時帰国した知人と再会した。彼は本当に心配そうな表情を浮かべながら、こう言った。

 「いつから日本はこんなにおとなしくなったんだろう」

 ずっと日本に住んでいる私たちは、その変化にあまり気づいていないのかもしれない。だが、久しぶりに海外から帰国した彼は、その変容ぶりに驚いていた。

 国民を挙げて熱狂するのは、オリンピックやワールドカップのようなスポーツ観戦のときくらい。森友・加計問題の追及も中途半端に終わり、社会保障や安全保障といった日本の将来を左右する大きな問題についても、どこかひとごとの人が多い。

 景気の先行きも不透明感が増しているのに、アベノミクスに疑問を投げかける人も少ない。北朝鮮問題についても米国頼みで、日本はまるで蚊帳の外である。

 まさに今、日本は岐路に立たされている。海外からみれば、日本人はいつ沸騰してもおかしくないほど熱く、危険なお湯の中に漬かっている。しかし、国内はまるで「ゆでガエル」のごとく、「声を上げても何も変わらない」と諦めてしまっているかのようだ。

 自民党・公明党の与党が衆議院の議席の3分の2を押さえており、与党にも野党にも議論しても仕方がないという雰囲気が漂う。経済界では、一部のスタートアップ企業が“ユニコーン”(時価総額10億ドル以上の新興企業)として注目を集めている。だが、いまだ日本経済の中枢を担っている大企業の動きは鈍く、経済成長に向けて新たな価値をダイナミックに生み出しているとは言い難い。

 このままの状況で、日本は大丈夫だろうか。影響力のある大企業の経営者やトップクラスの学者や有識者たちが、自分たちが考える日本のあるべき姿とはどのようなものかについて、もっと積極的に発言すべきだと思う。