PROFILE

伊藤忠商事元会長。1939年生まれ。食料分野を中心に活躍。98年に社長就任。4000億円規模の不良債権を処理し業績を回復。アジアへの造詣も深く2010年、民間出身では初の駐中国大使に起用された。

(写真=清水 盟貴)

「長期独裁はリスク。法の下の自由と平等が繁栄の王道だ」

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席への権力集中が強化されている。3月の全国人民代表大会では、憲法を改正し国家主席の任期を撤廃した。「独裁」色が強まっている。

 現在の中国は、急速な経済発展もあり市民の不満は大きく噴出してはいない。所得が増え、生活が豊かになっていくことを実感している限り、独裁体制により言論の自由などが制限される窮屈さへの市民の関心は、さほど高くはないようだ。まさに、「ペン」より「パン」といった状況である。

 しかし、自由と平等が長期にわたり制限されれば、不満はいずれ顕在化するはずだ。足元の繁栄の影に、基本的人権の問題が潜んでいることを忘れてはならない。

 これまでも何度か指摘してきたが、権力は必ず腐敗する。どんなに優れた人物であっても、権力を手にし、しかも長期にわたってその座に君臨すれば、暴走し始めるものだ。なぜなら、人間はそもそも利己的な存在だからである。

 秦の始皇帝以来、中国は2000年以上にわたって「皇帝」の力で統治してきた。習主席に対しても、国家主席の任期を撤廃したことから、新たな「皇帝」になろうとしているのではないかという見方すらある。

 皇帝の力によって国を統治しようという発想は、封建的な独裁にほかならない。だが、そうした手法による統治が長続きしないことは、歴史が証明している。

 習主席が中国の長期的繁栄を願うのであれば、自らの権力を抑制する体制を作らなければならないだろう。大国を治めるということは、一人の能力や知恵の範囲を超えている。個人の能力に依拠した統治には限界があるからこそ、法によって利己的な判断を抑制する仕組みを作ることが欠かせない。