PROFILE
1947年生まれ。慶応義塾大学卒業後、大和証券(現在の大和証券グループ本社)に入社。2004年社長、11年会長、17年顧問、現職。女性活用や働き方改革に先鞭をつけた。

(写真=大槻 純一)

「AIが生む賃金格差。付加価値高い仕事に就くためにも教育の拡充を」

 近年のICT(情報通信技術)の進歩は目覚ましい。私が長年にわたり関わってきた証券業界も例外ではない。高速取引やロボアドバイザーなど、これまでは人間が行っていた売買判断や資産運用助言などの分野に、新しいテクノロジーが活用され始めている。今後もAI(人工知能)や量子コンピューターなどの新技術が、想像をはるかに超える形で台頭してくることが予想される。

 企業が生み出した付加価値のうち、人件費が占める割合を示す労働分配率は世界的に低下傾向だ。製造業を中心に自動化が進み、以前よりも労働力が必要なくなってきた面は否めない。このまま機械やAIによる代替がどんどんと進んだら、人間のする仕事がなくなるのではないか。多くの人がそう心配してしまうのもうなずける。

 しかし私は、人間の仕事はなくならないと思う。AIは決められたルールさえあれば、物事を正確に、素速く処理することに関しては得意だ。だが、不測の事態やこれまで経験したことのない事象に遭遇すると、人間よりも優れた能力を発揮できるとは限らない。物事を柔軟に捉えたり、抽象化する力、創造力といったものは、まだまだ人間の方が勝っている。

 また、曖昧さやいいかげんさ、忘れるといった、一見すると弱くて不完全な部分も人間の強みといえるだろう。これは、長い進化の過程で、絶えず変化し続ける環境に適応するために人間が獲得した力であり、現在のAIでは決してまねできないものだ。

 AIでは強みを発揮できない分野はまだまだある。だから自動化が進み時間が空いた分、人間はより付加価値の高い仕事に就けばいい。こうしたAIと人間の「役割分担」で、より効率的な社会が実現するのではないかと、ポジティブに考えている。