PROFILE
1937年長野県生まれ。肺結核の治療のため高校を中退。58年、寒天メーカーの伊那食品工業に入社、83年に社長就任、2005年から現職。
(写真=陶山 勉)

「環境が不安定な今こそ長期的視野に立て。
会社が安定する道はある」

 中国経済の低迷に石油価格の下落、世界的な株価の急変動──。2016年が明けてからというもの、世界経済は混沌を極めている。

 経済環境の変化は会社の経営に大きな影響を与える。だが経営者ならば、どんな環境が訪れても会社を安定させられる手段を常日頃、考えておかなければならない。

 商品の売り方一つを取ってもそうだ。多くの経営者は成長を好むため、巨額の広告宣伝費を投じたり大量の商品をさばける販路を開拓したりして、一つでも多くのヒット商品を生み出そうとする。たまたまヒットすれば当然、売り上げは伸びる。しかし、その後に衰退期が必ずやってくる。ヒットを長期にわたって出し続けることは困難だからだ。

 変動する環境の中で経営者が成長だけを求めると、組織の中に無理が生じてくる。1月12日付の日本経済新聞に、以前から交流のあるトヨタ自動車・豊田章男社長のこんな発言が取り上げられていた。「現場に近いところでそれぞれ数字の目標を決めて頑張るのはいいが、経営トップはやってはいけない」。

 販売台数などの数値目標をトップが言うと、それ自体が現場のノルマとなる。すると、環境の浮き沈みに関係なく現場は数字を作ろうと無理をするようになる。独フォルクスワーゲンしかり、東芝しかりだ。

 当社は寒天商品などを製造して販売しているが、広告宣伝もほとんどしないし強力な販路も持ち合わせていない。ただし、当社の商品のことが好きなファン(固定客)に飽きられないように、新商品を少しずつ出すことだけは続けている。おかげで固定客は、少しずつではあるものの年々増加している。

 「この世に生き残る生物は、力の強いものでもなく、頭の良いものでもない。変化に適応できるものだけ」とは、チャールズ・ダーウィンの言葉だ。会社も同じ。どんな環境変化にも適応できる力を身につけることが重要だ。

 そのために経営者は、長期的視点で物事を見る力を養っておきたい。今、中国経済の成長鈍化に頭を悩ませている経営者は多いことだろう。だが私は、本当の試練はむしろこれからやってくると見ている。

 中国の成長は、鈍化こそすれ終わったわけではない。経済成長によって生まれた中間層は、どんどんぜいたくをするようになる。すると、今まで先進国の私たちが当たり前のように手にしてきた物を簡単には手にできなくなる。フランスのワインやスイスのチーズ、ベルギーのチョコレートなどが、中国に買い占められる日が来るかもしれない。

 そんな品薄の時代が来ても生き残れるのはどんな会社か。「常に仕入れ先を大事にしている会社」だ。日頃から相手に敬意を尽くしていれば、困った時に手を差し伸べてもらえる。仕入れ先に限った話ではない。協力会社や顧客も同じだ。

 ところが、そうしていても窮地に立たされる事態に陥ることもある。中国の過剰生産に端を発した鉄鋼不況がその一例だ。余剰在庫が市場にあふれ、世界的な鋼材価格の下落を招いてしまった。日本の鉄鋼メーカーは大きな打撃を受けたが、それでも道はあると私は思う。

 例えば、鋼材価格が安いことを逆手にとって、鋼材を大量に必要とする国家プロジェクトを立ち上げてはどうか。津波がいつ来てもおかしくない地域に高い鉄骨の建物を造り、いざという時の避難場所にしてもいいかもしれない。実現可能性はともかく、こうしたアイデアを業界や国が出すことは可能だ。

 いかに長期的に物事を見る視野を持てるか。不安定な経済環境の今こそ、この技量が経営者に求められている。

日経ビジネス2016年2月29日号 132ページより目次

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