PROFILE
伊藤忠商事前会長。1939年生まれ。食料分野を中心に活躍。98年に社長就任。4000億円規模の不良債権を処理し業績を回復。アジアへの造詣も深く2010年、民間出身では初の駐中国大使に起用された。

(写真=清水 盟貴)

「現実味を帯びる『ツキジデスの罠』。
戦争から遠ざかる努力を」

 2月9日に韓国・平昌で開幕する冬季オリンピックを前に、韓国と北朝鮮の南北対話が始まっている。ドナルド・トランプ米大統領も対話が進んでいる間は軍事行動を控えるなど、少しずつではあるが、危機回避に向けて前進しているようにも見える。

 だが、戦争を回避できるほど我々人類は賢くなったのだろうか。北朝鮮の金正恩・労働党委員長による核・ミサイル開発と、トランプ大統領や習近平・中国国家主席などリーダーたちの対応を見ると疑問を禁じ得ない。金氏が「核のボタンは机の上にある」と米国を挑発すれば、トランプ氏が「私の核のボタンの方がもっと大きい」などと力を誇示する。一方、習氏の関心は自国の覇権拡大で、米国と協調する意欲は感じられない。

 「ツキジデスの罠」という言葉がある。米ハーバード大学の政治学者、グレアム・アリソン教授が提唱する、覇権国と台頭する新興国は必ず衝突し、戦争が起きる可能性が高いという警告だ。古代ギリシアの歴史家ツキジデスが『戦史』で、紀元前5世紀に新興国アテネと覇権国スパルタが衝突したペロポネソス戦争を分析したことにちなんだものだ。

 アリソン教授によれば、過去500年間に起きた16事例の主な覇権争いのうち、戦争を回避できたのは4つのみだという。覇権争いが起きると、実に75%の確率で戦争に陥っているということになる。

 アリソン教授は朝日新聞のインタビュー(2017年12月22日付)で「トランプ氏と習氏が結束して金正恩氏に核開発をやめさせるわずかな奇跡を祈りたい」と話している。北朝鮮の挑発をきっかけに、米国と中国が戦争することを懸念しているわけだが、そのような事態を避けるためにトランプ氏と習氏が協調することは「奇跡」と言っている。つまり、米中の協力はほとんど無理だということだ。