PROFILE
日本電産会長兼社長。1944年京都府生まれ。職業訓練大学校を卒業。73年に日本電産を創業した。ハードディスク向けから家電・商業・産業用、車載モーターまで事業を広げ、世界有数のモーターメーカーに育てた。
(写真=小倉 正嗣)

「 一流大学主義の新卒採用は
意味がない。仕事の面白さ、
厳しさを訴える 」

 大学生の就活シーズンが近づいてきた。新年度はまた、就活期間が延びるということで、学生も企業もやりにくいことが多い。

 日本企業の採用戦略は今もなお、一流大学などブランド大学採用が中心なのではないか。長い間、その是非が問われてきたが、結局、一流大学の出身者の方が入社後も伸びる確率が高いという思い込みの元に、変わらないまま続いてきた。だが、その採用戦略は、本当にやる気のある社員をそろえることにつながってきたのだろうか。私にはそうは思えない。

 意欲の高い社員を増やすための採用戦略とは何だろう。1つ目は、採用の段階で学生に何を求めているかをはっきりと示すことではないか。最近、いくつかの国立大学で学生向けに講演をした。日本電産の創業から今日に至るまでの過程を話したが、質問してくるのは留学生がほとんど。日本人の学生は質問してきても、起業のノウハウのようなことばかり聞いてくる。

 問題はそこにある。大事なのは「ノウハウ」ではない。「働く」ことの意味だ。なぜ、仕事をして頑張れるのかといえば、面白いからだ。起業に限らず、働けば失敗することもある。うまくいくこともある。しかし、仕事ができるようになり、企業に貢献している実感が持てるようになれば面白くなる。それが次の頑張りにつながる。

 だからこそ、私の採用戦略は、そういう学生を集めることを大事にしている。もちろん、学生のうちから仕事のことを詳しく知っている人は少ない。「自分の人生をこうやって切り拓こう」としっかり考えている人も多くはない。大半は企業に入って、働くということを覚えていくものだ。でも、頑張れば仕事は面白くなることが、わずかでも分かっていればいいのではないか。

 当社は若くても意欲のある人には、どんどん仕事を任せ、昇進させるようにしている。もちろん、うまくいかなければ降格することもある。挑戦は責任と表裏の関係だからだ。でも、手を挙げれば何度でも挑戦できるから、一度降格しても復活する人はたくさんいる。

 こう言うと、厳しい面ばかりが強調されがちだが、ブランド大学を出て大企業に入社しても結局は同じこと。意欲も気力もない人は、仕事が面白くならないから、やがて埋もれていく。日本企業の採用は、大学のブランドよりも「働く心」にもっと焦点を当ててもいいのではないだろうか。

 採用戦略そのものではないが、関係するものとして2つ目を挙げると、社員の育て方も大事だと思う。学生はすぐ上の先輩を見て入社する。その先輩はというと、さらに上の層の働き方や育成の仕方を見ている。つまり、経営者の考え方がどれだけ社内に浸透しているかが、採用にも影響するのだ。

 私は、国内はもちろん、海外の子会社に行った時も必ず社員たちと食事をする。昼も夜も1回20人ずつぐらい、食事をしながら話をする。食事代は全て私が出すから、給料は食事代のためにあるようなものといってもいいかもしれない(笑)。そこでは皆とやり取りしながら、創業の理念、企業の価値観などを話し続けている。それは私の考え方であり、日本電産が培ってきたものだからだ。

 当社にとって何より重要な柱は、社員が高い士気を持って仕事に取り組むことである。「1人の天才より100人の凡才」と私は常々話している。私の会社は、こういう会社。嫌だと思うなら無理は言わない。でも、希望を感じるなら来てほしい。私はいつもそう話しているし、日本企業ももっとそう言うべきではないのか。

日経ビジネス2016年2月8日号 98ページより目次

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