PROFILE
1935年生まれ。慶応義塾大学卒業、キッコーマン入社。米コロンビア大学経営大学院修了。95年社長、2004年会長、2011年から現職。2014年6月、日本生産性本部会長に就任。
(写真=陶山 勉)

「経済成長の実感が必要。
生産性の向上と女性、高齢者、外国人の活用を」

 2016年を迎えた。今年は経済成長が軌道に乗ったという実感を、国民が持てるようになることが必要だろう。政府は今年の半ばぐらいまでにそういう実感を持たせるようなことをやってもらいたい。TPP(環太平洋経済連携協定)は早く批准しなくてはいけないし、規制改革ももっとやってもらいたい。安倍晋三政権は2020年ごろまでにGDP(国内総生産)を600兆円に増やすという方針を打ち出した。それを目指すためにも2016年から成長軌道に乗せないといけない。

 2020年にできるかどうかは分からないが、600兆円は必達目標だと思う。しかし到達するのはそう簡単ではない。日本の人口は減り始めていて、労働人口も減っているからだ。その中で成長するには生産性の向上が必要だ。

 私は一昨年、日本生産性本部の第7代会長に就いた。生産性本部ができたのは1955(昭和30)年。今、生産性を高めるニーズは当時と同じぐらい、あるいはもっと大きくなっているのではないかと思っている。

 ご存じの通り、日本の生産性の水準は高くない。経済協力開発機構(OECD)の中で20位ぐらいだ。米国と比べると、製造業の生産性ですら7掛けにとどまっていて、改善の余地がある。もっと低いのはサービス分野だ。これは米国の半分。さらに宿泊や飲食だけだと米国の4分の1にすぎない。サービス業の中でも、とりわけ中小企業の生産性が上がれば、地方創生に結びつく。地方の経済力の源泉は、公共事業が大分少なくなってしまっている今、中小が担うサービス業だ。

 個別企業の生産性を上げるのは限界がある。そこで必要になってくるのは、新陳代謝だ。生産性の低い企業は市場から退出するというメカニズムが働くかどうかだ。生産性の高い企業が市場に入ってくれば、生産性の低いところは退出せざるを得ない。

 例えば、新しいホテルができて、古い旅館が廃業するということがあるかもしれない。もう少しリーズナブルな値段で若者が泊まれるような施設ができると、面白いのではないかと思う。その際、労働力がうまく移転できる仕組みを作るのは政府の仕事だ。

 生産性の向上とともに、労働人口を減らさない努力もしなければいけない。短期的な課題としては女性の活用だろう。これは政府も一生懸命やっているし、各企業もその気になってきているが、さらなる活用が必要だ。労働力の補充としてではなく、女性にしかできない仕事をしてもらうことで、プラスアルファを期待したい。それから高齢者。定年延長で残ると、問題もいろいろあるので、シニアの労働マーケットを確立するためにも、企業に残らないで、外で新たなマーケットで働くということがあってもいいだろう。

 一例として、子育て中の母親が働くとなると、保育所ばかりではなく、児童保育で面倒を見る必要が出てくる。私は、そういうところでシニアの人を相当活用できると思う。親にとっても安心だ。おじいさん、おばあさんぐらいの人が、そこにいて子供の面倒を見てくれる。そういうことを考えても、シニアの特性を生かした雇用市場は結構あると思う。

 外国人の労働力も活用する方向に徐々に持っていかないといけないだろう。最初は5年とか期間を区切って働いてください、というやり方でいいと思う。いきなり移民ではなく、外国人の労働力を計画的に使う。やりようによってはできるはずだ。それがだんだん慣れてくれば移民の受け入れも考えられるようになるかもしれない。

日経ビジネス2016年1月11日 98ページより目次

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