創業260年を超える前橋市の小松屋陶器店が閉店を決めた。歴史ある陶器店を苦しめたのは、安価な食器を求める消費者ニーズの変化。100円均一などの台頭と、後継者が不在であることにも決断を促された。

[小松屋陶器店当主]
荒井達郎氏

1928年生まれ。56年ごろから店を手伝い始めた。9代目当主を務めた父の後を継ぎ、10代目当主に就任。3人の子供を育てながら、妻の朝子氏と約60年間、創業から260年の歴史を持つ店を運営してきた。89歳。

SUMMARY

「小松屋陶器店」閉店の概要

小松屋陶器店は1756年創業。高価な陶器を中心に取り扱っており、最盛期は冠婚葬祭の返礼品を求める客が殺到した。しかし、近年は安価でシンプルな食器へのニーズが高まり、売り上げは減少していた。ニーズの変化に合わせて、品ぞろえを増やし、客数の増加を狙ったが、客足は回復せず。後継者もいないことから、閉店を決めた。

 当店は創業260年を超える陶器店で、私は10代目当主です。創業から一貫して陶器の販売を手掛けてきました。日本全国に歴史ある店はあまたありますが、創業から同じ商売を続けている店というのは珍しいようです。私は先代の父から店を継ぎ、約60年間、妻とともに店を運営してきました。

 ですが、もう店をたたむことに決めました。創業から私の代まで歴史をつないできたご先祖や、応援してくれたお客さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、売り上げも減り、後継者も不在な中、高齢の私たち夫婦で店を続けていくのは難しいと判断しました。

年収は最盛期の15分の1

 店の年収は直近で200万円ほどですが、最盛期には3000万円ほどの売り上げがありました。結婚式や葬式の返礼品として陶器が選ばれていた時代で、20年ぐらい前までは本当に忙しかった。

 ですが、最近は安価でシンプルな食器が大量に出回り、消費者もそういった商品を求めるようになりました。特に脅威となったのが、100円均一のお店です。装飾が凝った食器よりも、真っ白でシンプルな食器が使いやすいと感じる人が増えているように感じます。そうしたお客様は100円均一ですべて間に合ってしまいます。

<span class="fontBold">100円均一など安価品を売る店に対抗すべく商品構成の見直しに取り組んだが、限界だった</span>
100円均一など安価品を売る店に対抗すべく商品構成の見直しに取り組んだが、限界だった

 生活様式の変化も大きい。昔のように広い一軒家に住む人は減り、マンションに住む人は増えました。一軒家に比べると、マンションは狭く、本当に欲しいものを最低限必要な量だけ買うという購買行動に変化せざるを得ません。そうすると、当店で用意している例えばつぼなどは自宅内に置き場所がないため、買ってはもらえません。

 もちろん、そうした消費ニーズの変化に対応するために、商品構成の見直しをはじめ経営上、打てる限りの対策は打ちましたが、力及びませんでした。

 まずは安価品に対抗し、低価格帯の商品を増やしました。とはいえ個人事業主の店ですから、大量に発注して100円均一というわけにはいきません。そこで1000円以下でも購入できるような商品を充実させました。ただそれでは、在庫の数は増えたものの客足の回復につながりませんでした。

 安価品とはすみ分け、「高くてもいいから欲しいものを手に入れたいと思う少数派」を対象に、高価格帯で商売を続ける手もあったかもしれません。

 しかしこうした感度の高い消費者に対応するには、100円均一以上に、多様な商品を用意しなければいけません。彼らは気に入ったものに対してお金を出し惜しみすることはありませんが、十分に納得がいく商品でないと買ってはくれません。

 商品構成以外にも、対応策はあったのかもしれません。が、小松屋陶器店は経営上、もう一つの問題を抱えていました。後継者不在です。

 私には3人の子供がいますが、全員前橋市の外で安定した生活基盤を築いています。年々売り上げが減る一方の店を継いでもらうわけにはいきません。先祖代々受け継いできた店を次の世代に渡すことは大切なことだとは思ってきましたが、店の経営環境を考えるにつれ、無理に次世代につなぐ必要はないと考えるようになりました。

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