旭化成子会社、旭化成建材の現場代理人がマンション基礎工事のデータ改ざんに手を染めた。傾いているのが見つかった横浜のマンションをきっかけに、調査対象は全国3040件へと拡大。記者会見に臨んだトップたちは歯切れの悪い説明に終始した。全容解明までの道のりは遠い。

[旭化成代表取締役副社長]平居 正仁氏
1951年北海道生まれ。75年北海道大学法学部卒業、旭化成工業(現旭化成)入社。戸建て住宅「ヘーベルハウス」の営業畑を歩み、2010年住宅子会社、旭化成ホームズ社長。2014年から浅野敏雄・旭化成社長ら3人と共に代表取締役に就任。住宅・建材事業を統括する。

(写真=都築 雅人)
横浜のマンション傾斜問題の概要
三井不動産レジデンシャルが2006年に販売した横浜市都筑区の大型マンションで、基礎工事の施工不良から建物が傾いているのを住人が発見。杭打ちを請け負った旭化成子会社、旭化成建材の現場代理人が杭70本に関するデータの転用・改ざんを認めた。杭8本は固い地盤に十分に届いていなかった可能性が高い。旭化成は杭打ちに関わった全国3040件の調査を進めている。

 これまでの社内調査で、杭(くい)打ち工事の現場代理人(担当者)は「すべての杭がきちんと(固い地盤の)支持層に到達したと思っていた」と話しています。この現場代理人だけでなく、(杭打ち機の)オペレーターなどほかの作業メンバーもほぼ同様の証言をしました。

 彼は杭が支持層に到達したかどうかを示す電流計のデータを紛失し、ほかのデータから転用して補ったことは認めています。ですが、「杭打ち工事が十分できていないことを隠すため、故意に不具合を隠蔽するデータ転用は行っていない」と言い続けています。

 杭打ちの試験掘削は元請けの担当者を含め関係者全員が集まり、ボーリング調査のデータを基に、どこまで進入したかを確認。支持層に杭の先端が当たると、反動がどーんと来ます。本来は杭の深さと反動、電流計のデータがはねた(反応した)のをすべて合わせて判定すべきですが、現場では電流計がはねただけで支持層に到達したと考えることはあったと聞いています。

 ただ、横浜のマンションで8本の杭が傾いているのは事実です。いろいろなデータを突き合わせて考えたときに杭に何らかの欠陥、不具合が発生しているのではないかと思っています。

整合性ない代理人の話

 (現場代理人の話からは)そこの整合性が取れません。

 元請けの三井住友建設で杭の深さを調べる「サウンディング調査」を行っていますが、我々はより詳細に70本の杭すべてがどうなっているのかをきちんと調べていくつもりです。

 現場がどうなっているのか。それを作業メンバーの「記憶」として発言している内容と突き合わせることによって、彼らが本当のことを言っていたのか、何かを誤認したのか、嘘をついたのかということも、その事実でしか語れないのではないでしょうか。

 その人(現場代理人)に関してはひょっとしたら事実と違うことを言っているかもしれないな、ということはありますね。もし杭の不具合を隠すためにデータを転用した可能性があるなら、考えられるのはこの現場代理人、1人だけだと思います。

 なぜ70本もの杭のデータが紛失したのか。現場代理人の話では、工事報告書を最後にまとめて作ったということでした。この物件では、データが非常にたくさんたまっていたものを、最後に整理してまとめて報告書を作ったように記憶していますと。

 彼は約3カ月間の杭打ち工程の中盤、病気で3日間仕事を休みました。代わりの者が現場に来ましたが、「その間のデータは(引き継が)なかった」。そんなことをぽろっと言っています。彼は契約社員ですから、管理職ではありません。ただ、性能を保証する意味でとても大事なデータを軽々に扱ったことは、本当に申し訳なく思っています。

 工期を守ることが非常に強いプレッシャーになったかという点は、これからじっくりと調べていく必要があります。10年前の話であるし、当時は確かに仕事が忙しく、工期についてはナーバスだったかもしれません。

 ただ、少なくとも杭が足りない場合に追加の杭を打つということは、現場代理人にとっても、我々にとっても、コストアップにつながるという話ではありません。それは元請けの三井住友建設が負担することになっていますから。

 現在、過去10年間で旭化成建材が手掛けた全国3040件の物件について調査しています。ですが、データの転用があればすぐ不良物件で、倒壊の恐れがあってという構図ではありません。

 全国の皆様に不安を与えていることは本当に申し訳ないのですが、気休めにもならないかもしれませんが、この10年間で、東日本大震災も経験しながら建物が傾いたというのはこの1件だけでした。

 過去43年間の杭打ち事業の中で、我々の杭が原因で上部構造物(地上の建物)が倒壊したというような報告はありません。ですから、本当に科学的な根拠とか、合理的な話はできませんが、急に今、建物が倒壊するとか、そういう心配はないものと経験的に我々は考えています。

<b>三井不動産レジデンシャル販売のマンション。手前の建物で傾きが見つかった</b>(写真=読売新聞/アフロ)
三井不動産レジデンシャル販売のマンション。手前の建物で傾きが見つかった(写真=読売新聞/アフロ)

誇りが甘さ招いた可能性も

 過去10年より古い建物に関しては、もうデータが残っていないんですね。ですから、調査対象の10年以内の物件と同様の対応はできません。ただ、不具合が起きている場合には、間違いなくきちんと対応したいと思っています。

 旭化成は「へーベルハウス」という戸建て住宅ブランドを手掛けています。杭打ち事業に携わっている人たちもある種の誇りを持ってやっていました。そのブランドがあるが故に、ひょっとしたらチェック体制が甘くなったということはあるかもしれません。

 チェックはルール通りにやることになっていますが、様々な部分も含めて、その時の雰囲気だとか、場の状態だとか、いろいろなことがあろうと思いますので、それも含めて検証していきたいなと考えています。

 調査や建て替えの費用分担は、最後にみんなでやりましょうというふうに思っています。旭化成が全額を負担するとか、おまえのところは何を負担しろとか、今から決めてやるということは多分誰も考えていないのではないでしょうか。

敗軍の将を語る
社長の涙に評価二分

 旭化成グループの社員約3万人は複雑な思いで「敗軍の将」の弁明を聞いた。

 住宅事業の元営業マンは「平居副社長は自ら研修を企画するなど社員教育に力を入れていた。このような形でずさんな工事が明らかになり、相当ショックを受けていると思う」と話す。

 別の社員は「我々は是々非々ではっきりと話す平居副社長の性格を知っているが、外部からは開き直っているように映ったのではないか」と危惧する。

 評価が分かれたのは、記者会見での浅野敏雄社長の涙だった。医薬品の研究者だった浅野社長がトップに就いたのは昨年のこと。住宅・建材事業を統括する平居副社長のほか、化学、電子材料をそれぞれ2人の代表取締役が束ねる「四頭経営」体制を敷いている。

 「真面目が取りえの会社なのにこういうことになり、悲しく悔しかったのだろう」(住宅事業の男性社員)と、涙を好意的に受け止める声がある一方で、「住宅のことが分からなくても、トップとしてきちんと説明すべき場なのに…」との厳しい意見もあった。

本記事は記者会見などを基に構成しました。

日経ビジネス2015年11月2日号 106~107ページより目次

この記事はシリーズ「敗軍の将、兵を語る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。