自民党・公明党の推薦を受けるも、野党が推す新人候補の米山隆一氏に敗れた。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働問題が争点となり、選挙は「住民投票」の様相に。長年の行政経験をアピールしたが、再稼働に慎重な米山氏に勝利をさらわれた。

原発以外の政策が 浸透せず
原発以外の政策が 浸透せず

 泉田裕彦前知事の任期満了に伴う新潟県知事選は、10月16日の投開票で共産党や社民党などの推薦を受けた無所属・新人の米山隆一氏が、前新潟県長岡市長の森民夫氏らを破り、初当選を果たした。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働問題が大きな争点となり、再稼働に慎重な姿勢を鮮明にした米山氏が次点の森氏に6万票以上の差をつける結果となった。

 支援者の方々には、毎日応援をしていただきました。本当に汗を流してやっていただいた。期待していただいた皆様の姿が今も目に浮かびますが、このような結果になったのは、全て私の実力不足。不徳の致すところです。心から皆様におわび申し上げるとともに感謝申し上げます。

 自分の選挙に対する姿勢としては、政策をきっちり立てて、県民の皆様にお話をしていこう。そう心に決めて準備を進めてきたので、相手候補が変わったことについては特に意識はしていませんでした(編集部注:今回の選挙では、本命視されていた泉田裕彦前知事が出馬を撤回。急きょ立候補した米山隆一氏と森氏の一騎打ちとなった)。

 どなたが相手でも、県民の皆様から頂いた要望を基に公約を作ってきたという意識があります。全力投球で自民党や公明党にも多大な支援を頂きましたが、期待にお応えできなかったことは大変残念です。(当選した米山氏については)新潟県の発展に向けて有権者の負託を受けられたのですから、しっかりやってほしいと思います(編集部注:森氏は今回の選挙戦で次のような主張を掲げて戦ってきた)。

 8月10日に立候補を表明してから、新潟県内の北は村上市から、西は糸魚川市、南は津南町、湯沢町まで全地区を自分のこの足で駆け回ってきました。

 選挙に向けては、全部で67項目の公約を発表しました。私が頭の中だけで考えたものではなく、有権者の方々の声を栄養にして、作り上げたものです。

原発以外にも課題は山積

 東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の問題はもちろん非常に重要です。原子力規制委員会の結論が出ても、新潟県には全国で最も厳しい技術委員会がある。市町村や技術委員会の意見をしっかりと聞いて厳しく検証する。国や東京電力に対しても、必要があればはっきりと「NO」と言う。

 こうしたことはきっちりと私の公約の中には書いてあります。県民の皆さんの安全を最優先にする。決して、原発問題に対して、無責任な立場ではないということです。

 それに加え、新潟県には原発以外にも、それぞれの地区で様々な課題があります。選挙中にも例えば、「人口減少で病院がだんだん縮小していく。何とかしてほしい」「高校が統廃合されるのではないか」「河川の改修が進んでいない。洪水が心配でしょうがない」といった多くの声を聞いてきました。

 あるところでは、障害を持っている子供のお母さんから、「この子が将来、しっかり生きられるようにしてください」とお願いされました。母親の介護で苦しんでいる女性の方からは「今の状況を何とかしてほしい」と言われました。

 有権者の皆さんの血のにじむような必死の訴えが新潟県にはたくさんある。原発への対応以外にも、新潟県には多くの課題が山積しているのです。

 私は長年にわたって長岡市長を務め、全国市長会の会長も経験しました。それでも、全県を回ったことで色々な要望、色々な夢を頂きました。

 私は長岡市で生まれ育ちました。かつて「表日本・裏日本」という言葉がありましたが、それを聞いて育った私にとって、(差別的な表現になる可能性があるため)こうした表現が使われなくなった今でも、依然として格差は残っているという気持ちがあります。日本海側がより発展していくためには、政令指定都市である新潟市をはじめとした都市の役割が非常に大きいのです。

 新潟には大きな可能性があります。空港があり、日本海側随一の港もある。上越新幹線もある。これらをもっと有機的につなげて、航空産業の誘致も絡め、上越新幹線を新潟空港まで通すことも重要でしょう。こうしたことも選挙戦では訴えてきましたが、誰かが言い出さなければ始まらないことです。

 県民の生活の全てにわたって政策をしっかりと立て、実行する。これが県知事の使命です。今は新潟県が皆さんの力でもっと発展していくことを祈っています。

「反原発派」が支える米山新知事

 全国的な注目を集めた今回の新潟県知事選挙。県民の高い支持を集め「4期目は確実と思われていた」(県政担当の大手紙記者)泉田裕彦前知事だが、8月末に突如出馬を撤回した。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働問題が宙に浮いたまま、事前予想を覆す波乱の選挙戦の幕が開くことになった。

<b>前知事の泉田裕彦氏が出馬を撤回したことにより、新人の米山隆一氏が出馬。事前予想を覆して初当選した</b>
前知事の泉田裕彦氏が出馬を撤回したことにより、新人の米山隆一氏が出馬。事前予想を覆して初当選した
<b>前知事の泉田裕彦氏</b>(写真=Natsuki Sakai/アフロ)
前知事の泉田裕彦氏(写真=Natsuki Sakai/アフロ)

 泉田氏が撤回の理由として挙げたのが地元紙、新潟日報社による、県出資の第三セクターによるフェリー売買契約の紛争を巡る報道。新潟日報の批判に泉田氏は「臆測や事実に反する報道が続いた」と反発。新潟日報が編集局長名で反論記事を掲載するなど、異例の展開をたどる。

 これにより、本命候補として浮上したのが5期にわたって新潟県長岡市長を務めた森民夫氏だ。自民党・公明党の推薦に加え、民進党支持団体の連合新潟、企業や業界団体も森氏を支持。選挙戦が始まっても、絶対的な優位性は変わらないとの見方は強かった。

 ところが、中盤以降状況は大きく変化する。共産党や社民党などが支援する米山隆一氏は市民団体なども巻き込み、柏崎刈羽原発の再稼働に関して慎重な姿勢を前面にPR。県民の「反原発感情」を巧みに吸い上げ徐々に支持を拡大したことで、逆転勝利につなげた。

 「県政には多くの政策があるのに、完全にワンイシュー(単一争点)の選挙にされてしまった」。森民夫氏の陣営関係者は敗北の結果を受け、悔しさをにじませた。農業・産業振興や教育など、いち早く対策に取り組むべき問題が山積しているのは確かであり、市町村との連携も重要になる。

 原発問題に関して「泉田路線の継承」を掲げる米山氏だが、2004年の初当選時から自民党が推薦してきた泉田氏と異なり、よって立つ支持層は明確な「反原発派」。共産党などが支援したこともあり、置かれた立場は異なる。行政経験のない米山氏が、国や東京電力とどのように対峙していくのか、その手腕が早くも厳しい視線にさらされることになる。

泉田裕彦前知事の不出馬で情勢が大きく変わった
●新潟県知事選の経緯
2016年2月26日 泉田裕彦知事(当時)が県議会で4選を目指し出馬を表明
8月10日 森民夫・長岡市長(当時)が出馬を表明
8月30日 泉田氏が地元メディアとの報道を巡るあつれきから出馬を撤回
9月23日 告示まで1週間を切ったタイミングで米山隆一氏が出馬を表明
10月16日 県知事選の投開票、米山氏が当選
10月25日 米山氏が新潟県知事に就任

「敗軍の将、兵を語る」は選挙期間中の演説や選挙後の囲み取材、記者会見などを基に構成しました。

日経ビジネス2016年10月31日号 106~107ページより目次

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