高齢者住まい法の改正を受けて、高齢者向け住宅の開発にいち早く乗り出した。本の出版やセミナーを通じて施設経営を指南するなど、啓蒙活動にも注力してきた。だが、急速な開発で資金繰りが悪化。再建のメドが立たず、経営破綻に至った。

[ASS元社長]高木 礼治氏
1951年愛知県生まれ。2002年ASSを設立し社長に就任。アパートや住宅の建設工事を主力とし、不動産の賃貸と仲介も手掛ける。2008年に介護事業に参入し、高齢者専用賃貸住宅など高齢者向け施設の建設を開始。同年、施設運営会社いこいの郷を設立して社長に就任。

ASSの破産の概要
2002年7月愛知県西尾市に設立。建設工事、不動産仲介を手掛ける。2008年介護事業に参入。2013年5月期の売上高は約35億円に達したが、資金繰りが悪化。2014年5月期の売上高は約13億円に落ち込み、約8億円の最終赤字に。資金繰りのメドが立たず2014年12月に民事再生法の適用を申請した。再建の見込みが立たないとの判断から今年5月、破産手続きを開始。

 高齢化が急速に進む日本では高齢者向け住宅の不足が深刻な問題となっています。必要な介護を受けられない「介護難民」も年々、増加しています。ですが、厳しい財政状況に陥っている国や地方自治体が施設とサービスを丸抱えして提供するには無理があります。そうした強い問題意識があり、民間の建設会社として他社に先駆けて介護事業に取り組んできました。

 2011年に「高齢者住まい法」が改正され、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の登録制度が創設されました(編集部注:サ高住は床面積やバリアフリー構造など一定の条件を満たし、日中に常駐する介護職員が生活相談や安否確認などのサービスを提供する賃貸住宅。要介護度に関係なく60歳以上であれば入居できる)。

 こうした時流に乗って事業を拡大。関連会社など10社からなるASSグループを形成し、2013年5月期の売上高は約35億円を計上しました。

 ですが、その後は資金繰りが悪化して経営が立ち行かなくなります。改善のメドが立たず、昨年末にASSと施設運営会社の法的整理を決断しました。

 背景には、福祉事業に関する多くの既得権益者と戦ってしまったこともありました。仮に資金があったとしても、そうした環境の中で会社の延命を図ることは困難だったでしょう。

 もちろん、会社を潰してしまった私の責任を否定するつもりはありません。ですが、せっかくの新規産業の発展を妨害する動きがあったことは、我々にとっても社会にとっても不幸だったと言わざるを得ません。

高齢者住宅の建設で急成長

 建材会社に勤務していた経験などから「暮らしの専門家」を自任していた私は2002年、地元の愛知県西尾市にASSを設立しました。事業内容は住宅の建設から修理、修繕、管理、仲介、資産運用、法律相談など多岐にわたります。専門家として事業内容の研究やコンサルティング業に注力したかったのですが、実務を手掛けなければそうした活動も机上の空論になりかねない。そう考えて多様な事業を展開したのです。

 所有する土地の有効活用で資産家などから多くの相談を受けました。資金調達からアパート施工、販売、管理まで一貫して取り組めるのが強みでした。

 事業を進めていくうちに高齢者向け住宅が不足しており、サービス面も不十分なことに着目しました。法律を調べてみると、2001年に制定された高齢者住まい法や2000年に施行された介護保険法には実態に合わない問題があると思いました。例えば高齢者住まい法では、高齢者向け賃貸住宅の基準があいまいで制度が複雑だと感じました。また介護保険法に規定されているサービスには、現場のニーズと乖離した内容もありました。

 一方、先述の通り高齢者向け住宅への対策は待ったなしの状況でしたから、「将来必ず法が改正される」と確信を持ちました。そこで2008年に高齢者専用の賃貸住宅を建設し、それを運営する会社「いこいの郷」を設立し、介護事業に参入しました。

 私の読み通り、2011年には高齢者住まい法が、翌2012年には介護保険法が改正されました。そして、サ高住の建設、運営に多くの事業者が参入したのです。

 高齢者向け住宅の不足を補うだけでなく、事業者にも補助金の受給や税制の優遇、低利の融資制度の活用といった利点があります。つまりサ高住は、収益力の高い土地活用法なのです。

<b>ASSの本社があった愛知県西尾市内のオフィスビル。経営が破綻した後、ASSの関連会社が運営していた高齢者向け住宅や介護施設は、別の事業者が引き継いで運営している</b>
ASSの本社があった愛知県西尾市内のオフィスビル。経営が破綻した後、ASSの関連会社が運営していた高齢者向け住宅や介護施設は、別の事業者が引き継いで運営している

経営ノウハウの普及に没頭

 私はサ高住の建設、運営を推進する傍ら、事業モデルを世の中に広く普及する活動も始めました。本を出版し、セミナーを開催。サ高住を核としてデイケアや保育所など地域のケアサービスを包括する事業モデルを提唱したのです。「高木式」と名付けたこの事業モデルは、多くの方に共感されました。

 ASSグループで20棟のサ高住を建設して運営し、デイサービスや診療所の運営、介護員養成研修事業にも手を広げました。こうした経営モデルが評価され、テレビ番組の取材を受けたこともあります。

 一方で、嫌がらせを受けたことも多々あります。怪しげな人が会社に訪問してきて、呼び鈴をしつこく鳴らされたり、悪口などが書かれたビラを毎日のようにまかれたりしました。

 法改正によって、高齢者向け住宅でも介護サービスを提供しやすくなったことで、従来の介護保険施設の担い手である医療法人や社会福祉法人は危機感を募らせました。施設の利用者がサ高住に奪われる可能性があるからです。今まで既得権益を持って甘い汁を吸ってきたわけですが、そうはいかなくなります。

 私自身はサ高住の普及に邁進してきただけでしたが、言動が目立ち過ぎたのでしょう。それで既得権益者から嫌がらせを受けたのではないかと推察しています。

 最後に歯車が狂ったのは、計画していた福祉施設の建設工事でトラブルが起きたことです。建設開発の手続きで不備があったことなどから、工事に着手できませんでした。その影響が大きかった。見込んでいた収入が入ってこなかったこともさることながら、会社の信用が損なわれたのでしょう、新規の融資が止まり、いわゆる貸しはがしに遭いました。

 以前から指摘されていたことでしたが、運転資金を含め外部資金への依存度が高い財務状況でした。そのため、資金繰りが一気に悪化して、法的整理に踏み切らざるを得ませんでした。

 ただ、介護事業自体には問題はありませんでした。むしろ人気の施設との評判もありました。法的整理に至る前には、いくつかの大手企業からスポンサーに就くという提案も受けました。運営会社のいこいの郷の事業は、民事再生手続きの開始後にスポンサーが決まり、今でも事業は継続しています。

 結局、私は事業者としては失格でした。既得権益者に対してうまく立ち回る手腕もなかった。

 私の介護事業モデルがほかの経営者の参考となり、日本の高齢化問題の解消に多少なりともつながることを今は願うのみです。

日経ビジネス2015年9月7日号 108~109ページより目次

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