今年7月、役員と店長2人が労働基準法違反の疑いで書類送検された。消費増税後も客足が衰えず、労使協定を超える残業をさせていた。急遽インタビューに応じた野口実社長は、「長時間残業の対策が遅れた」と反省する。

[エービーシー・マート社長]野口 実氏
(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
1965年生まれ。88年中央大学経済学部卒業後、シヤチハタ東京商事入社。91年インターナショナル・トレーディング・コーポレーション(現エービーシー・マート)入社。98年ホーキンス事業部長、2003年取締役営業部長、2004年常務取締役。2007年3月から現職。

労働基準法違反容疑の概要
今年7月、東京労働局はエービーシー・マートと同社労務担当役員、店長2人を書類送検した。2014年4~5月、「Grand Stage池袋店」と「ABC-MART原宿店」の従業員4人に対して、法定時間や労使協定で定めた上限(月79時間)を超える、97~112時間の残業をさせていた疑い。賃金の未払いはなく、残業代はすべて支給していた。

 問 今年7月、労働基準法違反の疑いで書類送検されました。昨年の4~5月、池袋と原宿の2店舗で従業員に対し、法定時間や労使協定で定めた上限を超える残業をさせていたという内容です。東京労働局内に今年4月に新設された「過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)」が初めて送検した事案としても、注目されました。

 答 2014年8月、該当店舗について東京労働局から調査の対象となりました。その後、関係者の事情聴取を経て、このたび、送検となりました。

 送検内容は認めています。このような事態になったことは大変遺憾であり、株主の皆様、顧客の皆様、関係者の方々、従業員に迷惑をかけてしまったことを大変申し訳なく感じています。

 問 なぜ、該当の2店舗で超過残業が発生してしまったのでしょう。

 答 実は4年ほど前から残業時間の削減には全社的に取り組んでいました。全社の平均残業時間は年々減少していました。ですが、店舗ごとや繁閑の異なる時期ごとにばらつきがあり、解消できない店舗もありました。

現場管理を徹底できなかった

 店舗運営は店長をはじめとする現場スタッフの裁量の自由度が高かったことも、労働時間の管理の点ではマイナスでした。

 マニュアルでの規定を最低限にした自由裁量は当社の特長です。社員のやる気を引き出し、サービスを向上する点では効果的と考えていますが、本社人事部門の残業削減策とうまくかみ合わず、結果として、抜本的な削減には至りませんでした。

 過去には地域の労働基準監督署から、複数の店舗に対して長時間残業に対する改善指導を受けたこともあります。その都度、改善に努めてきました。

 そうした中、昨年3月には消費増税前の駆け込み需要があり、長時間労働は改善するどころか、一気に悪化してしまいました。

 反動で昨年4月以降は来客数がかなり減少すると予想していました。ところが、外国人観光客の増加とスニーカーブームなどから、むしろ想定以上に多くお客様が来店されました。今回、問題となった2店では、外国人観光客が夕食後、閉店間際に来店するケースが多くありました。夜9時の閉店時間を超えて営業する状態が続きました。

 いずれにしても、これらの状況を予見しきれず、違法な超過残業になってしまったことは、店舗の判断だけでなく、本部の管理が甘かったと反省しています。

 問 「既に残業問題を解消した」と表明しています。どう改善したのですか。

 答 労働局の調査が始まって、改善の指導を受けた昨年8月に、改めて問題の対策に着手し、残業問題は同月以降、解消済みです。

 送検が今年7月だったこともあり、いまだに改善していないと受け取れるような報道もありましたが、事実とは異なります。

 改善策はいくつかあります。まず店舗ごとに営業時間と従業員のシフトを見直しました。例えば、来客数が少ない早朝に営業していたり、そうした時間に多くの社員が勤務していたりすることがあり、改善しました。平日と週末で営業時間を変えるなど全808店舗のうち106店舗で30分から2時間、短くしたのです。

 社員の意識改革にも着手しました。店舗ごとに自由な裁量を認めることで店長が仕事に没頭し過ぎてしまい、ほかの社員を巻き込んでしまうようなことがありました。時間管理を徹底する指導ができていませんでした。

 その反省から店舗作業の趣旨とゴールを明確にしました。例えば、売り場のレイアウト変更などの「売り場づくり」についてです。以前は営業時間外に実施する店舗が多くありました。「お客様がいらっしゃる時間に売り場をいじるべきではない」と考える社員も少なくなかったからです。

 ただ、そうなるとどうしても残業が増えます。そこで営業時間内に済ませる意識を持つよう社員に徹底しました。

<b>違法な長時間残業を指摘された東京・原宿の明治通り沿いにある「ABC-MART原宿店」。外国人観光客が半数を占める。閉店時間後も客足が途絶えず営業を続けたことなどが長時間残業の一因だった</b>(写真=的野 弘路)
違法な長時間残業を指摘された東京・原宿の明治通り沿いにある「ABC-MART原宿店」。外国人観光客が半数を占める。閉店時間後も客足が途絶えず営業を続けたことなどが長時間残業の一因だった(写真=的野 弘路)

バイト社員を増やし残業を削減

 アルバイト社員も増やしました。従来は週末勤務が前提だった採用条件を、平日勤務のみでも可能にするなど緩和をして人員の増加を図ったのです。

 こうした取り組みと結果は随時、労働局に報告してきました。その際、助言を頂いて改善に努めました。本来は自社で改善すべきことでしたが、関係機関の方々のお手をわずらわせてしまったことを申し訳なく感じています。

 問 営業時間の見直しや今回の報道によって業績や今後の戦略にどのような影響がありますか。

 答 幸い業績に大きな影響は見られません。残業問題を解消して1年近くがたっており、仕組みとして機能しているからだと思います。また、直近の今年7月の既存店売上高は前年同月比で7%、伸びています。

 営業時間を変更したことは店舗運営を見直す大きな契機となりました。今までは周囲の商業施設に合わせて各店舗の営業時間を決めていました。商業施設の営業時間は、長い不景気の中で、長くなる傾向にありました。

 ですが、お客様が「ABC-MART」のような専門店に求めるのはファッション、品ぞろえなど利便性以外の部分が大きいと考えています。

 朝10時からだった開店時間を昼12時に変更した店が都心部にありますが、売り上げはむしろ伸びています。スタッフの集中力が高まった結果です。

 他店と営業時間を合わせて競争するのではなく、消費者から選ばれる付加価値で勝負すべきだと再認識するきっかけになりました。

 出店は、これまで通り進めます。ネット通販も好調です。特に実店舗との連携がうまく機能しています。

 今回の事態を重く受け止め、お客様や株主の皆様をはじめとする関係者の信頼と期待に応えられるよう、コンプライアンス(法令順守)に全力で取り組んでいく所存です。

日経ビジネス2015年8月10日・17日号 22~23ページより目次

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