違法賭博に揺れるスポーツ業界。その影響はバドミントン界にも及んだ。リオ五輪の出場が確実視されていた選手らが違法カジノ店に出入りしていたのだ。日本バドミントン協会は、新旧エース選手に厳しい処分を下す事態に陥った。
[日本バドミントン協会専務理事]銭谷 欽治氏
1953年、石川県生まれ。中央大学卒業後、河崎ラケット工業を経て、84年に三洋電機(当時)に入社。90年に三洋電機の監督に就任。同社女子チームを全日本実業団バドミントン選手権大会4連覇に導くほか、日本バドミントン協会の選手強化本部長なども務める。2015年から現職。
違法カジノ店出入り事件の概要
今年4月、ロンドン五輪代表の田児賢一選手と、リオデジャネイロ五輪の有力候補だった桃田賢斗選手という、男子バドミントン界の新旧エースが、都内の違法カジノ店で賭博行為に興じていたことが分かった。これを受けて、日本バドミントン協会は桃田選手を五輪強化指定選手から外した。エース選手の軽率な行動で、日本はメダルの取れる可能性を1つ失った。
4月、男子バドミントンのエース選手が違法カジノ店に出入りしたと発覚し、厳罰を下しました。ロンドン五輪代表の田児賢一選手は無期限の登録抹消。リオデジャネイロ五輪の代表候補だった桃田賢斗選手は無期限の公式競技会出場停止とし、リオ五輪の代表選手として日本オリンピック委員会(JOC)に推薦できなくなりました。
我々、日本バドミントン協会が事実を知ったのは、4月6日のことでした。突然、新聞紙と週刊誌の記者から問い合わせのファクスが届いたのです。
もう青天のへきれきというか、「まさか」という思いでした。とにかく事実確認が必要だと、田児君や桃田君が所属するNTT東日本の担当者に連絡を取りました。田児君や桃田君にすぐに会わせてほしいと伝えたのですが、当初は「会わせられる状況ではない」と断られました。両名とも気が動転していて、NTT東日本の担当者も、精神科のドクターを付けてヒアリングしていたような状況だったそうです。
田児君や桃田君は、ヒアリングで違法カジノ店に出入りしたことを認めました。そこで協会としても緊急理事会を開き、全会一致で厳罰に処すことを決断しました。
海外で覚えたカジノの楽しみ
なぜこんな事件が起こったのか。再発防止に向けて色々と考えました。
バドミントンでは、年に20回くらい国際大会に出場しないと世界ランキングが上がらず、五輪の出場権が得られません。国際大会では朝からひどい時は深夜の1時、2時まで試合が続きます。
日本代表だけでも男女合わせると30~40人の選手が試合に出ますから、監督やコーチは、どうしても出場する全ての選手に目を配ることが難しくなります。その結果、選手によっては昼食や夕食がフリーになるのです。
そこで協会では5~6年前から、所属チームの監督やコーチにも遠征に帯同してもらうようにしました。責任逃れでも何でもなく、選手にとってもその方が安心できるからです。
ただ、そうした状況の中で田児君はカジノに行くようになったようです。試合の空き時間なのか、試合に負けた後なのかは分からないけれど、取っ掛かりは外国のカジノだったようです。
日本代表の朴柱奉ヘッドコーチは、田児君が遠征時にカジノに行っていたことを知っていたようで、過去に何度も注意をしたそうです。「もっと試合に集中しろ。賭けごとはするな」と。
けれどそれでも止められず、ついには国内の違法カジノ店で賭博行為に手を出すようになってしまった。
選手たちは実業団チームの練習の後、仲間同士で飲食をしてから違法カジノ店に行ったようです。
協会では、1年のうちおよそ250日の間、代表選手らを国際大会や合宿などの公式行事で束縛します。けれど、それ以外の100日のうちの、ましてや練習に充てるおよそ50日間まで行動を監視することはできません。責任逃れをするつもりは一切ありませんが、選手のプライベートまでは、なかなか管理しきれないというのが実情です。
とはいえ、彼らは日本を代表するトップアスリートで、社会的な影響力はとても大きい。スポーツ庁やJOCなどから補助金を受けて、それを遠征費用の一部に充てていることを考えると、道義的な責任もあります。
協会では今回の事件を受け、日本代表選手らに次のように話しました。
「君たちは常に背中に“ジャパン”を背負っている。これはプライベートがあってないようなもので、非常に厳しいかもしれない。けれどトッププレーヤーがメダルを目指すということはこういうことなんだ」「365日、日本代表選手の自覚を持っておかないと絶対にダメだ。休日だから何をしていてもいいというわけじゃない」
特に最近はバドミントン選手のメディア露出が増え、芸能人のように見られるようになりました。日本のバドミントンのレベルが上がり、メダルを取れる種目になってきたためでしょう。それに貢献したのが田児君や桃田君であり、女子選手なら奥原(希望)さんたちです。「オグシオブーム」の影響もあって、バドミントン界への注目度は格段に高まっています。けれど、選手らの意識改革が追いつかなかった。
違法賭博の報道を受け、遠征先のマレーシアから急きょ帰国し、髪の毛を黒く染めて謝罪会見に挑んだ田児選手(左)と桃田選手(右)。淡々とした様子の桃田選手と対照的に、田児選手は何度も涙をぬぐった(写真=時事)
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