米国で開催された災害対応ロボットのコンテストで、日本勢がそろって惨敗を喫した。近年、研究者の海外流出が止まらず、国内のロボット開発に暗雲が垂れ込めてもいる。参加チームを支援したNEDOのリーダーが敗因を語り、民間の協力の重要性を訴えた。

[NEDOロボット・機械システム部長]弓取 修二氏
1985年早稲田大学大学院理工学研究科化学工学専攻修了。神戸製鋼所に入社し炭素繊維、繊維強化プラスチックなどを研究開発。英国留学を経て2001年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に入構。新エネルギー技術開発主任研究員などを経て2014年4月から現職。

災害対応ロボットコンテストの概要
米国カリフォルニア州で災害対応に特化したロボットコンテストの決勝が6月上旬に開催。主催は米国防総省で優勝賞金は200万ドル(約2億5000万円)。日本からは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けた産業技術総合研究所や東京大学などの3チームを合わせた計5チームが参加。最高は産総研チームの10位と惨敗。優勝は韓国科学技術院のチーム。

 災害対応ロボットのコンテストは、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が主催する、この手のジャンルでは世界で初めての大会です。2011年3月に起きた福島第1原子力発電所の事故を受けて、2013年に予選が実施されたのが始まりです。

 予選では東京大学発のベンチャーで構成されたチームが優勝。国内外で大きな話題になりました。しかし、このチームは今回の決勝は辞退。決勝に挑んだのは全24チームで、日本勢は5チームでした。私たちNEDOはそのうち3チームに対して開発費を支給するなどの支援をしました。

 コンテストでは災害を想定した多くのタスクが用意されています。ドリルで穴を開け、がれきを越え、さらにはレバーを押し下げたり、コンセントプラグを引き抜いて、差し込むといった内容のタスクが課されます。

 結果、日本勢の最高は産業技術総合研究所(産総研)のチームで10位。残りのチームも振るわず、最下位や棄権するチームもありました。

準備不足が敗因

 順位だけを見れば、韓国や米国のチームに完敗です。敗因は準備期間が足りなかったことに尽きます。上位チームは2年前の予選から出て、調整と改良を重ねてきていました。一方、我々は決勝一発勝負で臨みました。準備期間は約10カ月で、相当なハンディがあったと言えます。

 本来、ロボットを造るだけで1年以上はかかります。さらに競技で用意されたタスクを訓練する時間も必要です。ロボットのプログラムを改良したりすると、準備には最低3年はかかります。

 韓国勢などの上位入賞チームは潤沢に時間があったので、数台のロボットを用意してきました。1台壊れてしまっても次が使えるので、思い切りよくやっていました。我々は「壊してはいけない」という心理が働き、どうしても躊躇してしまいます。

 日本チームにとっては今回のコンテストは12月に開催される国際ロボット展への出品を見据えた、中間試験の位置付けでした。参加することで自分たちの技術開発のレベルを把握し、その後の加速効果を狙ったのです。

 ですから、「順位は悪かったけれども、だからどうしたの?」というのが正直な気持ちです。我々は最終的には国際ロボット展までに、2足歩行で動く汎用性のある災害対応ロボットの複数のパターンをお見せするということを考えています。

 災害対応と言っても、例えば土砂崩れから原発事故まで様々です。ですから、コンテストでは企業や開発者に刺激を与えられるような、複数のモデルを示したいという思いで参加しました。我々は最終的に商売が目的ではありません。ただ、こういう技術があって、それを発展させると実用化でき、人間社会に役立てられるといったことを提案したかった。だから、あえていろいろとパターンを変え、難しいトライアルに挑戦したのです。

<b>11位に入った東京大学の研究開発チーム「NEDO-JSK」のロボット。NEDOが支援した。コンテストはドアを開けたり、壁にドリルで穴を開けたりといったタスクが用意され、その達成ポイントとタイムで争われる</b>
11位に入った東京大学の研究開発チーム「NEDO-JSK」のロボット。NEDOが支援した。コンテストはドアを開けたり、壁にドリルで穴を開けたりといったタスクが用意され、その達成ポイントとタイムで争われる

「ロボット」には企業の力が必要

 これまでは介護や人間を補助する役割を持つロボットの開発がメーンでした。それが変わる契機となったのが、東日本大震災です。危機対応が開発の大きなテーマになりました。

日本チームはいずれも惨敗
●コンテストの総合順位
総合順位 チーム名 国・地域
1位 KAIST 韓国
2 IHMC ROBOTICS 米国
3 TARTAN RESCUE 米国
4 NIMBRO RESCUE ドイツ
5 ROBOSIMIAN 米国
6 MIT 米国
7 WPI-CMU 米国
8 DRC-HUBO AT UNLV 米国・韓国
9 TRAC LABS 米国
10 AIST-NEDO(産総研) 日本
11 NEDO-JSK(東大) 日本
12 SNU 韓国
13 THOR 米国・韓国
14 HRP2-TOKYO(東大) 日本
15 ROBOTIS 韓国
16 VIGIR 米国・ドイツ
17 WALK-MAN イタリア
18 TROOPER 米国
19 HECTOR ドイツ
20 VALOR ドイツ
20 AERO(東大) 日本
20 GRIT 米国
20 HKU 香港・米国
棄権 NEDO-HYDRA(東大など) 日本
注:カッコ内はリード組織。NEDOは支援

 しかしコンテストはもちろん、ロボット開発においては国や大学だけでは限界があります。資金面もそうですが、完成度の高いものを仕上げていく「作り込みのノウハウ」はやはり企業でなければ無理です。

 例えばクルマには無数の配線がありますが、ノイズによる誤作動なんてないですよね。民間企業はクライアントがいるから、緊張感をもってモノ作りができる面があります。そうした民間のモノ作りのノウハウをロボット開発に生かし切れれば、より完成度の高いロボットができるはずです。

 今後は企業をどうやって巻き込んでいくかが課題です。そのためには、企業の関心のあるテーマ、つまり市場化が見込めるロボットのニーズを高めていかなければなりません。

 研究開発のフェーズから実用化のフェーズに持っていくことが我々に求められています。例えば2020年には政府が推進しているロボット新戦略の目玉となるロボットオリンピックが日本で開催されます。この大イベントを通じてどこまで企業を巻き込めるかが、極めて重要になってきます。ただし、ロボットにかけっこをさせても、企業にとっては「それで何なの」ということになる。実際にマーケットをにらみながら、産官学の融合を図っていかなければなりません。

 今、日本の技術者の米グーグルなどへの人材流出が加速し、心配しています。だからこそ、ロボット開発環境や人材育成環境をもっともっと整える必要があります。

 今回は振るわなかったコンテストの結果ですが、決して日本のロボット開発はダメになったということではありません。私はまだまだ、日本のロボットが世界をけん引していく存在であると信じています。

日経ビジネス2015年7月13日号 86~87ページより目次

この記事はシリーズ「敗軍の将、兵を語る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。