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決断を下すリーダーは 哲学や倫理を学び、議論し、 自らを磨く必要がある

(写真=大槻 純一)

 遡ること20年、取締役に就任する1年前の話です。私は日本IBMが伊豆の天城高原で開催する「富士会議」に出席しました。弊社は企業の経営者や官僚、文化人など各界の論客をお招きして、社会課題、将来のあるべき姿など幅広く意見を交し、気づきを得る会議を毎年開いています。参加者に定年制を設け、若い順に「富士会議」「伊豆会議」「天城会議」と名づけています。

 さて、初めて参加した「富士会議」で私が何を述べたかというと──、実は、まったく発言できませんでした。参加者たちが自らの知見をもとに意見を述べ、それに真正面からの反論も出る白熱した議論の場で、私は自分が何も語るべき意見を持っていないことに愕然としたのです。

 それまでの私はとにかく仕事にまい進してきました。しかし、この会議での体験は、人は、とりわけリーダーになる人物は、自分の軸足、価値観を持つことが大事だと気づかせてくれました。そのためにはもっと哲学や古典を学ばねばならない、まずはインプットが必要だと考え、自分なりに勉強しました。自社の会議はもちろん、世界の経営者が議論し、学び合う場であるアスペン研究所の日本での会議にも参加しました。参加前には500ページに及ぶ資料を読み込まなくてはなりません。ある時期は、仕事を終えていったん床に入り、夜中の2時に起きて哲学書を読むことを習慣としていました。