経験値を結晶化させ、原理原則を後世につなぐ
それが「三方よし」

 あれは1995年の阪神大震災のさなかですわ。先代の親父が言うんです。「人間、こういう時に援助を差し伸べるもんや。取引先が倒産するかもしれないからといって、商品を取り返しに行ったりしてはならん。今、一番必要なのはタオル、せっけん、瀬戸物の食器や。タオルなんて雑巾代わりにいくらでもいる。すぐに発送しなさい」

(写真=菅野 勝男)
(写真=菅野 勝男)

 私らもつい、「送ったって、すぐには着かんで。橋が倒壊してえらい時なのに」と言ってしまいます。でも、親父も譲らん。「そんなもん、腐るもんであるまいし。はよ送れ」

 結果的に、親父の言う通りでした。得意先から、「なんでこんなんのが必要だと分かったんや。ちょうどいるところだった」と喜ばれまして。これが近江商人ですわ。

 我々、近江商人の多くは滋賀県の琵琶湖の東側を出身地としています。一説にはこのあたりは実業家の出現率が全国平均の50倍に相当するとか。伊藤忠商事や丸紅の創業者であられる伊藤忠兵衛さんや、日本生命保険を立ち上げた弘世助三郎さんなど、多くの企業家を輩出しました。私らの店も着物、宝石、毛皮・バッグの3本柱と不動産事業などを展開し150年の歴史を刻んでまいりました。

 近江商人が大事にする理念としてよく知られているのが「三方よし」です。売り手よし、買い手よし、世間よし。商売でまず大切なのは「売り手」の採算。借金せずに自分の力で立つ。でも、「買い手」のお役に立って、いつまでも、お客様に喜んでもらわないと、それは商売じゃない。そして、商いを通じて「世間」のお役に立つ。つまりは社会貢献できることが近江商人の目標であり、本願なんです。