自分の「譲れない一線」を勝負どころで守れるか
人生の価値はそこだ

 外交官の責務は交渉の記録を刻むことにあり──インテリジェンス小説と評していただいた『ウルトラ・ダラー』にこう書いたことがあります。機微に触れる外交のさなかは、交渉内容も厳秘とされますが、精緻な記録は残しておくのが鉄則です。後年、その記録の機密が解かれ、すべての外交官が歴史の審判を受けることになります。

(写真=大槻 純一)

 この物語を読んだある読者から「外交官といえど、上司や周囲の意向を忖度して、虚偽の記録を紡いでしまうケースもあるのでは」と尋ねられました。

 その通りです。目先の出世がちらつき、職場の空気に配慮したりして、事実を曲げ、書くべきことを伏せた文書などいくらでもある。僕も大組織に身を置いた経験がありますから、常に筋を通せとは言いません。でもプロフェッショナルとして、勝負どころで安易に妥協するなら仕事をする意味がない。どんなに怖い上司でも懸命に説得すべきです。なにも外交官に限りません。公認会計士でも、営業マンでも、生き方を懸けて「断じて譲れない一線」があるはずです。