社内で新規事業のアイデアを募り、審査を通過したプロジェクトの事業化を支援していくソニーの「シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)」。2014年4月に社長直轄の組織として設立された新規事業創出部は、これまでに13の事業を立ち上げてきた。

 技術者らが業務外で隠れて研究開発を行い、それを黙認する。かつてのソニーでは、そんな「机の下」から生まれたアイデアが、ある日突然商品化されることも珍しくなかった。だが、いつしか、そんな「机の下」の開発も停滞。SAPの発案者である小田島伸至氏(現・新規事業創出部統括部長)は、そもそもアイデアの原石の受け皿となる仕組みがないことに疑問を持った。

小田島氏がアイデアの原石の受け皿を作ろうと動いたことがSAPのきっかけ(写真は吉成大輔、以下同じ)
小田島氏がアイデアの原石の受け皿を作ろうと動いたことがSAPのきっかけ(写真は吉成大輔、以下同じ)

 「縦割り化されたミッションをこなすのに精一杯で、連携は難しい」
「技術者がアイデアを披露する場がないうえ、プレゼンテーションに不慣れで予算を獲得できない」
「世代間の価値観のギャップを、過去の知見だけで埋められない」――

「君がやるんだよね?」

 小田島氏が調べてみると、新規事業を生み出す課題は山のように見つかった。同氏は13年末に当時ソニーの業務執行役員で事業戦略などを担当していた十時裕樹氏(現・ソニーCSO[最高戦略責任者]でソニーモバイルコミュニケーションズ社長兼CEO)にSAPの素案を持ち掛けた。すると、十時氏は「いいんじゃない」と即答。だが、「君がやるんだよね?」と、十時氏が続けた言葉に小田島氏はハッと気づかされた。「一端の起業人のつもりでいたが、上から指示されたり上におうかがいを立てたりする組織人の意識がまだ残っていたんだ」。

 十時氏はインターネット専業銀行であるソニー銀行の設立に携わった人物。自分のアイデアを自身で事業化していく起業家マインドを持ち合わせている十時氏から見れば、小田島氏が考えたSAPの素案を自らの手でカタチにしていくのは当然、と考えたわけだ。

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