学生の減少や交付金の減額に悩む大学は、運営費にも事欠く事態に追い込まれている。高度人材を企業に派遣することで新たな収入源を確保し、人材育成にも生かす取り組みを始める。

(写真=gremlin/Getty Images)
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大関 真之[おおぜき・まさゆき]
東北大学大学院
情報科学研究科
准教授
1982年生まれ。2008年東京工業大学で博士号取得。16年10月から現職。量子コンピューターとAI(人工知能)の両分野で日本を代表する研究者として活躍する。

 日本の大学は、このままでは研究と教育の能力を根本から失いかねない。大学を社会の要求に応えられる組織に変えるためには、大学研究者が専門知識を生かして自ら稼ぐ仕組みが必要だ。

 そこで2019年4月から大学内にベンチャー企業を設立し、博士号などを持つ高度人材を企業に派遣する事業を始める計画だ。大学の規約などを改正する必要があるが、実現すれば日本初の取り組みとなる。

 量子コンピューターを研究している私の研究室には、既に企業から人材派遣の要請が来ている。研究者は派遣先企業の課題を解決するために専門知識を提供する。代わりに対価を得て、これを研究者の人件費や研究資金に充てる。新しい収入源を確保することで、大学は運営費の不足を解消し、自由度の高い研究費が得られると考えている。

トイレのせっけん代にも事欠く

 大学の収入源は大別すると3つある。①文部科学省からの交付金や補助金②受験料や授業料といった学生からの収入③省庁などが公募する研究プロジェクトなどから獲得する研究費──だ。これらの収入から、設備管理費や人件費などが支払われている。

減少し続ける大学運営費
●国立大学運営費交付金総額
減少し続ける大学運営費<br /><small>●国立大学運営費交付金総額</small>
出所:文部科学省
時間が奪われる研究者
●大学教員の職務時間割合
時間が奪われる研究者<br /><small>●大学教員の職務時間割合</small>
出所:科学技術・学術政策研究所

 このうち、①の文科省からの国立大学運営費交付金や私立大学等経常費補助金は右肩下がりで減っている。少子化などの影響で、②の受験料や授業料は将来的に増える見込みが少ない。

 今、多くの大学では運営費の不足で事務職員を雇えず、研究者が自ら多くの事務作業をしている。こうした作業が増えれば、研究を行う時間はその分だけ短くなってしまう。一部の大学では研究室の賃貸料を各研究室に請求し、その収入を大学の運営費に充てている。トイレに備え付けるせっけんの費用にも事欠き、教職員にカンパを募るという悲しい実話もあるほどだ。

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