松田健太郎(まつだ・けんたろう)
日本総合研究所 研究員
京都大学法学部卒業。2011年三井住友銀行入行。2013年より日本総合研究所調査部、マクロ経済研究センター研究員。研究・専門分野はアジア経済。
韓国検察は崔順実問題で朴槿恵大統領を立件。大統領府は検察の取り調べには応じない構えだ(写真=アフロ)
韓国では朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入疑惑により、朴大統領の支持率が5%を切った(11月21日時点)。検察による捜査の行方と今後の去就に注目が集まっている。
政治の混乱が長期化すれば、外交関係に支障を来すだけでなく金融市場にも悪影響を及ぼし、韓国経済の停滞につながりかねない。
産業界を見ると、大手電機メーカー、サムスン電子のスマートフォンの発火問題や、現代自動車による12年ぶりの全面ストライキなど、これまで韓国経済を支えてきた財閥企業の問題が相次いで浮上している。各社の経営陣は事態の沈静化を急いでいる状況だ。
さらにここにきて、保護主義を掲げるトランプ次期米大統領の就任が決定したことで、米国とのFTA(自由貿易協定)の見直しリスクという新たな懸念材料が加わった。
政局の混乱と財閥企業の問題や業績低迷、そしてトランプ氏の就任で韓国が揺れている。こうしたリスクは韓国経済にどんな影響を与えるのか。
これまで韓国経済をけん引してきた輸出は、中国をはじめ世界的な景気減速が鮮明となり、成長が鈍化している。そのため政府は2014年以降、消費刺激策や不動産規制の緩和を実施し景気を下支えしてきた。
政府支援に頼る海運・造船
輸出の低迷が経済成長率の停滞を招いている
●韓国の実質GDP(国内総生産)成長率の推移
出所:Bank of Korea
しかし、世界的な景気冷え込みの傷痕はまだ残っている。中でも、構造調整下にある海運・造船業は厳しい状況が続く。海運では韓進海運と現代商船の大手2社が苦戦。営業利益はともに赤字基調のままだ。
好況時の高い用船料で長期契約を結んだことが主因とみられる。債権銀行団による経営再建が進められてきたものの、8月に韓進海運が法定管理(会社更生法適用)となった。
造船でも現代重工業など大手3社の業績が振るわない。受注量の大幅低迷が響いており、それぞれ雇用の見直しや資産売却などを急いでいる。
受注の悪化で造船3社が赤字に転落
●韓国の主要造船企業の純利益
海運・造船各社の頼みの綱が、10月に政府が策定した「造船業競争力の強化策」だ。「2020年までに250隻(約11兆ウォン)を政府が発注する」といった支援策を盛り込んでいるが、現在のように政局が混乱している状況で想定通りに進めることは難しい。混乱の長期化により、強化策が後ろ倒しするリスクがあると筆者は考える。
さらに今後、大統領の交代などで政府の体制が一掃されてしまえば、政府の強化策そのものが見直される可能性がある。不況業種の改善は遅々として進まず、さらなる業績の悪化という循環に陥りかねない。
業種別に見れば、構造改革が進み明るい兆しを見せている産業もある。韓国経済を支える主力とも言える、エレクトロニクス産業だ。
スマホの発火問題で揺れているサムスンは、2016年7~9月期の決算ではモバイル事業の業績悪化が目立ったものの、2014年7~9月期を底に、営業利益は増加基調にある。
スマホ「ギャラクシー」に対するブランドイメージ毀損の影響はあるとみられるが、サムスンが新興国の家電市場でもつ現在の優位性に鑑みれば、テレビや白物家電など、他事業への影響は軽微にとどまる。
サムスンは生産拠点の中心も中国からベトナムへと移管を進めており、中国市場での人件費高騰による利益圧縮などのあおりも受けにくいとみる。
LG電子は高価格帯のスマホの販売不振が業績を下押ししているが、テレビやAV(音響・映像)機器などのホームエンターテインメント事業の営業利益は四半期ベースで過去最高を記録。製品の見直しによるコスト削減やテレビのハイエンド製品の販売拡大が利益を押し上げている。生活家電も国内エアコン事業の好調を中心に堅調に伸びるなど、高付加価値化に重点を置いた経営戦略が奏功している。
朴政権の混乱は、こうした電機業界の明るい動きにも水を差しかねない。既に韓国検察はサムスンを含むグループ9カ所を、崔容疑者と関わった疑惑があるとして家宅捜索した。捜索が長引けば、韓国内で絶大な人気を集める企業イメージの悪化や、株価低迷につながるリスクをはらんでいる。
この記事はシリーズ「気鋭の経済論点」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?