
東京大学社会科学研究所教授
1988年東京大学経済学部卒。東京工業大学助教授などを経て現職。専門は産業組織、公共経済。電力・ガス取引監視等委員会の専門会合委員を務める。
●新電力への契約切り替え件数の推移

今年4月、電力小売りの完全自由化が実現し、消費者は価格が安い電力や地球温暖化ガスの排出量が少ないクリーンなエネルギーを選ぶ自由をようやく手にした。9月末までに電力会社を切り替えた件数は188万件となった。電力市場改革の大きな成果だろう。
だが自由化が直ちに活発な競争をもたらすわけではない。切り替え件数にしても、全体のわずか3%程度。期待よりも低調なのは事実だ。競争的な市場作りはまだ途上といえる。
競争を妨げている要因として、新電力の電力調達手段が限られていることが挙げられる。地域独占と総括原価方式に守られてきた既存の大手電力会社は、大半の発電能力を自社あるいは他社との長期契約という形で抱え込んでいる。そのため新電力が新しい発電所を作る余地は限られる。
これを解決するため、大手電力会社が作った電力を新電力が一部使えるようにする仕組みもある。「常時バックアップ」と呼ばれる制度で、新電力は自社需要の3割を上限に、足りない電力を大手電力会社から購入できる。
ただし、価格が高いうえに量も3割と限られているので力不足である。新電力は顧客に売るべきものがないため、積極的に顧客を開拓しようとは考えず、結果的に切り替えが進まない状況に陥ってしまう。
大手電力会社の発電所を強制的に新電力に売却させれば、調達の問題は即座に解決するだろう。だが私的財産権の侵害となるリスクがあり、これは究極の手段だ。
●電力を融通する仕組み

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