藤代 宏一(ふじしろ・こういち)
第一生命経済研究所主任エコノミスト
2005年第一生命保険入社。2010年第一生命経済研究所出向。内閣府にて月例経済報告を作成した経験も。2015年より現職。担当は金融市場全般。

(写真=時事)

 一時1ドル=80円を割っていた為替レートは2012年秋から円安基調をたどり、2015年央には125円超まで振れた。2015年秋頃からそのトレンドが変化し、2016年には100円近傍まで水準を下げる事態となっている。

 日本では「黒田バズーカによる円安」との理解が浸透していたため、いよいよ日銀の金融政策が限界を迎えたとの議論が盛り上がった。マイナス金利導入は “逆噴射”と酷評され、日銀の失政が円高を招いたとの声も目立った。

 しかしながら、筆者は対ドル相場の大部分を説明しているのは米国経済であり、日銀の金融政策はスピード調整程度のインパクトしか有していないとの基本認識を抱いている。相場変動の8割程度を米国側が決定しているとのイメージだ。

 為替と米実質GDP(国内総生産)成長率の推移から、そのことを単純に説明することが可能だ。

 1ドル=80円近傍から125円近傍へと60%程度の円安が進行した2013~15年央までの平均成長率は2.5%程度と、2%弱とされる潜在成長率を上回っていた。市場で「強い米経済・強いドル」が意識され、米連邦準備理事会(FRB)の引き締め観測がドルの上昇に直結。ドル金利上昇に脆弱な新興国通貨に対してはもちろん、低金利調達通貨に対してもドルは「唯一の利上げ通貨」として選好され、ドルは独歩高となった。

 そうした地合いの下、日銀は2013年4月と2014年10月に追加緩和を決定。市場参加者の度肝を抜く大胆な規模だったこともあり、円安・株高が進行。「大成功」との評価につながった。

 しかし、2015年夏頃に米国経済に変調の兆しが表れた。原油安がエネルギー企業を直撃したほか、ドル高が製造業を中心としたグローバル企業の収益を圧迫し、米企業収益が減益に転じる事態となった。設備投資が3四半期連続で減少となったことが証明するとおり、企業支出の減少が経済全体の足かせとなった。

 この間の平均成長率は僅かに1%程度と潜在成長率を大幅に下回っており「強い米経済・強いドル」を語るにふさわしくない状況にある。それゆえ、ドル安の風が吹いてきたというわけだ。