政治
金田 信一郎
かねだ・しんいちろう
本誌編集委員。ニューヨーク特派員、日本経済新聞編集委員などを経て現職。

新人女性社員の過労死に始まった電通の違法残業問題。法人と幹部4人が書類送検され、今後は刑事処分の行方が注目される。なぜ、広告の巨人は劣悪な職場から抜け出せなかったのか。

 新人女性社員の過労死に始まった電通の違法残業問題。法人と幹部4人が書類送検され、今後は刑事処分の行方が注目される。なぜ、広告の巨人は劣悪な職場から抜け出せなかったのか。

 華やかなメディア企業から、究極のブラック企業へ。電通は事件発覚によって、一瞬でイメージが地に落ちた。社長は引責辞任に追い込まれ、夜10時に全館消灯される状況が続く。そして、刑事事件になる瀬戸際に追い込まれた。

 何が電通を狂わせたのか。

 「軍隊のような社風をなくしてください」。亡くなった社員の母親は、今もそう訴え続けている。

 確かに常軌を逸した伝説は枚挙にいとまがない。小さなミスや緩んだ態度を見せる若手をつるし上げる「説教部屋」と呼ばれる会議室からは、怒鳴り声が絶えなかった。恒例の新人の富士山登山では、上位で戻ってこないと坊主刈りにされる部署もあったという。

 この軍隊さながらの体質は、そうなった「必然性」がある。それは、電通の特異な立ち位置に起因する。企業は、売るためのあらゆる手段を求めてくる。

 「企業の宣伝部長が言うことは絶対命令。たとえ朝令暮改でも、二つ返事で従わなければならない」(元幹部)

 しかし、入社してくるのは東大を筆頭とする一流大学の卒業生ばかり。

 「理屈で考えると口答えしてしまう。なので、一度、新人の人格とプライドをたたきつぶす。すると、他人が言うことをそのまま受け止められるようになる」。京大卒の元幹部は、自身の経験からも、軍人的教育法は有用だという。

 自殺した新人は、東大を出てこの状況に飛び込み、悩み苦しんだ。現場を改善しなかった電通経営陣の責任は深くて重い。だが、問題が深刻化した背景には、企業社会の「負の連鎖」がある。

企業社会の矛盾を抱え込む

 電通のクライアントには、数千億円の宣伝広告予算を持つような大企業がずらりと並ぶ。日ごろからつながりのある宣伝部長はもちろん、その上の担当役員や経営トップまでが報告ラインでつながっている。大企業からの要求は、電通社内でも営業を通して各部門に伝わり、電通上層部にも報告が上がる。さらに、広告を出すテレビや新聞といったメディアにも担当者やその上司が控えている。「気の遠くなるような決裁のスタンプラリーが続き、誰か一人でも反対したら、進めてきた企画がひっくり返る」(電通関係者)