日産自動車がEV「リーフ」を初めて全面改良し、攻勢に出る。2010年の投入以来、世界で累計27万台を販売した初代リーフ。走行中に排ガスを出さないクルマを社会に浸透させる役割を担った。だが、EV市場では今や米テスラなど新興EVベンチャーが台頭する。競争激化の中で、日産は「EV王者」の座を守り抜くことはできるのか。執念のプロジェクトの舞台裏に迫った。

<b>デザインはより多くの人に受け入れられることを意識して刷新。出力110kWのモーターが力強い加速を実現する</b>
デザインはより多くの人に受け入れられることを意識して刷新。出力110kWのモーターが力強い加速を実現する

 2015年のある日、神奈川県厚木市にある日産自動車の研究開発拠点「日産テクニカルセンター(NTC)」。デザイナーの仕事場となっている棟の大きなホールに、1台のクルマがするりと滑り込んできた。2017年秋の発売が決まっていたEV(電気自動車)、新型「リーフ」の試作車だ。

 10年に初代を発売して以来、初めてのフルモデルチェンジ(全面改良)。その姿は、丸くてかわいらしい印象だった初代から一転、シャープで都会的な姿に生まれ変わっていた。

「三権分立」で切磋琢磨を促す
●日産自動車の新車開発体制
「三権分立」で切磋琢磨を促す<br /> <span>●日産自動車の新車開発体制</span>
「企画」がニーズを拾い、それを「デザイン」と「開発」が具現化する。全体を取り仕切るのは、開発のチーフビークルエンジニア
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 日産では新車を開発する時、互いに切磋琢磨できるように「三権分立」の体制を採っている。世界各国のユーザーニーズをくみ取ってクルマの仕様に落とし込む「商品企画」、そのニーズを反映して外装や内装のスケッチを描く「デザイン」、そして、そのデザインを壊さないように実際に動くクルマに落とし込んでいく「開発(設計)」。それぞれ役割は違うものの、1つの商品を創り上げていく同志だった。

 開発チームのメンバーが新型リーフを囲んでホールで待っていると、日産の経営幹部たちが続々と入ってきた。その中に、この日を誰よりも待ち望んでいた人物がいた。会長のカルロス・ゴーンだ。

 ゴーンは、しばらくそのクルマを見つめた。そして、ゆっくりと歩き始めた。フロントグリル、ヘッドライト、側面のライン、バックライト、内装。眼光の鋭さが増す。必要に応じて、デザインや設計のメンバーに説明を求めた。

 最後にゴーンは満足そうにうなずいて、こう言った。

 「よし。これで行こう」

 「よっしゃー」

 ホールに開発メンバーたちの声が響き渡る。2代目リーフのデザインが決定した瞬間だった。その様子をゴーンは、うれしそうに見つめていた。

初代のつまずき

<b>日産を「EVの王者」にするビジョンを2008年から描いていたカルロス・ゴーン。その実現を今もあきらめてはいない</b>(写真=竹井 俊晴)
日産を「EVの王者」にするビジョンを2008年から描いていたカルロス・ゴーン。その実現を今もあきらめてはいない(写真=竹井 俊晴)

 ゴーンが日産社内で本格的にEVを開発しようと言い出したのは、08年のことだ。いずれ必ずEVの時代は来る。この次世代カーで王者になれれば、世界市場における日産のブランド価値は上がり、さらなる成長につながるに違いない。そう踏んでいた。

 だが、現実はそう甘くはなかった。10年12月に発売した初代リーフは、当初予定していた販売台数には満たなかった(下のグラフ)。11年度の販売台数はグローバルで8700台。12年度に1万台を超えるも、その後は1万3000台前後を推移するにとどまった。

シェアは高いものの販売台数は伸び悩む
●リーフの世界販売台数とEVにおけるシェア
シェアは高いものの販売台数は伸び悩む<br /> <span>●リーフの世界販売台数とEVにおけるシェア</span>
出所:日産自動車
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 12年にマイナーチェンジを実行したが、起爆剤とはならず、むしろ販売台数は徐々に落ちていった。なぜ売れないのか。ユーザーの声を丹念に拾う中で見えてきたのは、次代を先取りしていたからこその蹉跌だった。

 まず浮き彫りになったのが、インフラ面での課題だ。急速充電設備(QC)を用いて充電するのにかかる時間は、バッテリー容量80%までで約30分。日本にあるQCの基数も、10年当時はわずか360基で、14年までにようやく2000基まで増えた程度だった。

 次に見えてきたのが、リーフそのものの課題だった。補助金の対象になるとはいえ、同じ車格の他車種に比べて価格が高いという印象をユーザーに与えていた。航続距離も当初200km(24kWhバッテリーの場合)で、ユーザーからは「不十分」と評価されていた。

 さらにデザインに対する好みも2極化していた。特に米国市場での評判が悪く、「乗り心地はいいのにデザインが嫌い」との声が多く聞かれた。

 挽回するには今が絶好の機会だ。QCの数が7108基に急増するなど、インフラが整ってきている。ただし、残りの課題を解決するだけでも不十分だと考えられた。ここ数年、急速に存在感を増す競合他社が登場したからだ。

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