チェーンストア理論と「商人道」

 鈴木は、チェーンストア理論へのアンチテーゼを、まずはコンビニエンスストアで実践していったとも言える。セブンイレブンの原点は米国だが、中身は徹底して日本の消費者ニーズに合うように変えた。

●イトーヨーカ堂の歴史
●イトーヨーカ堂の歴史
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 その一方で、鈴木が指摘するようなスーパーの限界がヨーカ堂で顕在化し始めるのは80年代に入ってからだ。それまでのヨーカ堂はむしろ、伊藤が作り上げた社風によって、スーパー業界の中で群を抜く財務体質と収益性を誇っていた。伊藤の節約志向と真面目さに根差した「商人道」が、強さの源泉だったのである。

 日経ビジネスの過去の記事(1981年8月10日号)に、興味深い比較がある。81年2月期の自己資本に対する有利子負債比率で見ると、ダイエーが380%を超えていたのに対し、ヨーカ堂は100%未満。損益分岐点比率を比べると、ダイエーが92%である一方、ヨーカ堂は86%だった。ダイエーと比べて優れた財務基盤と収益性を築き上げていたことが分かる。

 他のスーパーが借り入れに頼って自社物件を取得する傾向が強かったのに対し、伊藤はリースによる「持たざる経営」を重視。その上で、言葉遣いから作法まで、商売人としての心構えを「しつけ」と称して社員に徹底的にたたき込むことで、強い販売力を持つ組織を作っていた。

 だが、米国発のチェーンストア理論に独自の「商人道」を乗せて成長をしてきたヨーカ堂は、80年代に入ると失速する兆しが見え始める。82年2月期上期に、ヨーカ堂は初めて、前年同期比で経常減益となる。鈴木にとっては、大量の在庫を抱える従来型の事業モデルが綻びを始めたことの証左に見えた。

 「だから、82年に『業革』を始めたんです。伊藤さんに言われたからではなく、僕が自分で改革を始めたんだ」

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